あれから半年。私は代わり映えしない毎日を過ごしている。
時折よすがを求めて”あの世界”を旅していたけれど、遠くにメドーの影を見つけると彼の面影が浮かんで苦しくて、いつしかゲームのハードを目に入れることさえつらくなって、収納にしまい込んだ。
そこまでしてもなお、夜になりベッドに横になると、時折私に触れようと伸ばされた手の冷気が頬によみがえっては胸を蝕む。
忘れたい。もう、忘れてしまいたい。
そう願うのに、あざけるようなせせら笑いが、嫌味な言動が、ほんの少しだけ下がる穏やかな目尻が、呪いのように心を縛り付ける。
「リーバルさん……!」
泣いても、名前を呼んでも、返事はもう返ってこない。元より、彼は架空の人。物語のなかの登場人物にすぎないのだ。
わかっている。わかっているのに。
気づけば、また奇跡は起こると信じて、あのときのおまじないを試していた。
静まり返った暗い室内に、突如、冷気をまとった淡い緑色の炎のようなものがぼう……と音を立てて吹き上がる。
炎のなかから出でた透き通った体は、炎が薄れるにつれ鮮明になり、やがて実体となった。
暁の空を思わす鮮やかな紺に映える白。
宝玉のように澄んだ淡色の両の目が私を捉え、瞳孔を細める。
「君か、僕を呼んだのは?」
久しく耳にした気だるげな声に、エコーはかかっていない。待ち焦がれた人を前にして、私の心臓は今にも飛び出さん勢いでどくどくと脈打ち始める。
「は、はい……多分……」
またもや声が裏返ってしまった。恥ずかしい。
彼は、あのときと同じように後ろ手を組んであごを反らせると、案の定、嫌味たっぷりな笑みをそのくちばしにのせた。
「ガノンを倒して、ようやく永い安息が得られると思ってたんだけど。あんまりしつこく呼ぶから仕方なく来てみれば……相変わらず凡庸そうな面だねぇ」
おどけるような口ぶりで緩慢にかぶりを振る彼に、いても立ってもいられず。驚き両翼を広げたその胸に飛び込んだ。
包み込むように回された腕は、陽だまりのように温かい。
あるはずのない奇跡の元、私たちはふたたび再会を果たした。
新涼の風が吹き渡る、満月の夜に。
「新涼の風渡る夜に」(完)
(2021.12.30)
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