リーバルの日記

14ページ目

フィローネの塔の解放により、各地に埋没していた塔の解放も残りわずかとなった。
この任務は塔の解放と周辺の調査とに分けられ、塔の解放には姫、リンク、僕、そしてあの子が宛てがわれた。

ノッケ川での一件以来、あの子とは以前のように普通に話すように心がけつつ、必要以上にかかわらないようにしている。
それなのに、何のはからいか。
僕と彼女が同じ任に就くように調整しているとしか思えないほど、彼女とは度々行動を共にすることが多い。

いつだかダルケルとウルボザが僕と彼女の戦闘での相性が良いなどと言っていた。
リンクやダルケルのような接近タイプと違い、上空から広範囲に矢を放つ僕と後援の彼女はどちらもトリッキーな戦法だ。
彼女自身が攻撃を仕掛けることもあるが、戦場慣れしていないため指示通りに動くことが多く、回復や補助的な技で援助している場合がほとんどだ。
しかも補助的な技というのは、僕の俊敏性やパフォーマンスを向上させるようなものだ。
場数がなかったぶんはじめこそ足手まといだと思っていたが、手慣れてくると指示しなくてもここぞというタイミングで動いてくれる。見かけによらず気が利くところもあり、確かに相性の良さは実感している。

けど、最早ただの仲間だと割り切れないほどに意識してしまうようになっている僕にとって、彼女と任務を共にすることは苦痛でしかない。

でも……僕が悩む以上に彼女を傷つけてしまっていることも重々理解している。
ほかの連中に迷惑をかけまいと取り繕ったり、気持ちを抜きにして僕とフラットに交流をはかろうと気を遣ったりしているが、健気に振る舞えば振る舞うほど、まるでフードをまとっていたあの頃よりもその殻が厚くなっていくようだ。

あの子のあんな顔は、正直見ていられない。
僕のなかに渦巻くこの心情と……彼女と、しっかり向き合わなくては。
この任務が終わったら今度こそ話をしよう。


 
周辺の調査に向かった班の戻りを待つあいだレイクサイド馬宿で雨宿りをした。
雨に濡れた体をやっと拭き終え、今後のことを考えながら休んでいると、いつの間にか目の前に彼女がいて、驚くままに腕を引かれ雨のなか外へ連れ出された。
拭き上げたばかりの体が再び雨に濡れそぼっていく不快感よりも、これまで僕に対して一歩引いていた彼女が大胆な行動に出た驚きのほうが勝り、不覚にもなすがままとなってしまった。

自分から僕を連れ出したもののなかなか話を切り出さない彼女にしびれを切らし馬宿に戻ろうとしたところ引き留められた。
真剣な眼差しに目を向けられないどころか、彼女の問いに情けなくもはぐらかすような返しをしてしまった。
彼女の本音に、悲痛な声に、どんどん心が侵食されていくようで。封じ込めてきた感情が今にもあふれてしまいそうで。

僕はとうとう彼女の手を握ってしまった。
これ以上この想いを封じ込めておくことなどできそうにないと悟った。

雨に濡れそぼる髪や紅潮した頬はとても綺麗で、僕をまっすぐに見つめる目は切なくて。
久方ぶりにちゃんと彼女を見つめたとき、どうしようもないくらいに愛おしい気持ちでいっぱいになった。

彼女とのキスは、雨水がまとわりついて冷たかったが、そんな煩わしささえも気にならなくなるくらいに甘いひとときで。
今まで懸念ばかり抱いてきたというのに、先行きのことなんてどうでも良くなるくらいに幸せな気分だった。

彼女の嬉しそうな笑顔や冗談交じりな軽口を叩く様子に、僕が見たかったのはこれだとようやく気づかされた。
それと同時に、これまで抱いてきた不安感は、彼女を守りたいという強い想いに変わった。
自分の感情を受け入れた今、これまで散々悩んでいたことが心底馬鹿らしく思える。

(2021.7.21)

次のページ
前のページ


 

「天翔ける」に戻るzzzに戻るtopに戻る