リーバルの日記

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クムの秘湯での一件から、僕は彼女を遠ざけるために冷たく突き放すように接した。
互いのためにもそうすべきだと思ってのことだが、僕がどれだけ厳しく叱りつけてもあの子が真摯に受け止めようとするのが返って苦しく、自分の意思に反し必要以上に強くあたってしまう。

僕の言動をウルボザが咎めてきた。彼女の言い分はよくわかっているつもりだ。言いすぎるのは僕の悪いところだということも。
けど、どうしようもないことに、今の僕は怒りの鎮め方を忘れてしまっている。
掴まれたスカーフにしわが寄ったのは……まあ、許そう。叱咤を受けるたびに彼女には密かに感謝した。

遠ざけるつもりだと言っても、必要以上にあの子を傷つけて任務に支障をきたすくらいなら、これまで通りに接してみるほうがいいのか。
そう思い至り、きつく言い過ぎたことを詫びようと一人になったところ声をかけようとしたとき、あいつが、リンクが彼女の元へと先に向かった。
そういえば彼女は夕食のときほとんど食事を口にしていなかった。
腹を空かせていると思って持って行ってやったんだろうが、気が利くやら、間が悪いやら……(彼女が食べるのにあの握り飯は大きすぎたが)

彼があの子に気があってそうしたわけではないと頭ではわかっている。あいつはただのお人好しだ。
けど、なぜだか、胸の奥にもやもやとした感情が渦巻いて、彼が去ったのを見計らって彼女に詰め寄った。
謝罪するために来たことも忘れて、僕の口からは彼女を貶めるような言葉ばかりがあふれた。

そんな僕に彼女はこう言った。”私の気持ち、知ってるくせに”と。
そうだ。知っている。ずっと前から。

自分の失態を挽回しようと躍起になっていることも。
自分だって苦しいのに、姫が落ち込んだ様子を見せると慰めようと無理して笑っていることも。

僕に何を言われようと、健気に想い続けてくれていることも。
表情や行動の一つひとつに、少なからず僕への情が絡んでいるということも。

気づくに決まってる。
遠ざけようとしておきながら、気づけばいつも目で追ってしまっているのだから。

彼女の目から涙がひとしずく流れるごとに胸が苦しくなって、僕に泣き顔を見せまいと向けられた背中はちっぽけで。
気づけば、彼女を抱きしめていた。

柔らかくて、僕の翼じゃあまるほど小さかった。
ふわりと彼女の髪から漂う香りにくちばしをうずめていると、腕に彼女の手がかけられ、ようやく我に返った。

戸惑う彼女をあとに残し、双子山の山頂に飛んだ。
山頂の刺すような風を受けようとも、山間を飛び抜けようとも、並木に矢を打ち込もうとも、気が晴れることはなかった。

想いを受け入れることも告げることもできないのなら、断ち切るしかないと思ってきたが、そうすることで余計苦しくなるというのなら、一体どうすればいいというのだろう。

気持ちの整理がついたら、そろそろちゃんと向き合わなければ。……この想いに。

(2021.7.15)

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