聖なる子守唄

16. 星屑に祈りを捧ぐ

明後日みょうごにち、ウルボザの先導によりイーガ団のアジトへ小隊が送り込まれることとなった。
首領との面会が叶えば、談判を行い和解を申し込む方向で進めるとのことだが、最悪の場合は武力衝突となる可能性もあるという。
小隊には、当然リーバルも加わっている。イーガ団のアジトは洞窟のように奥まった作りで薄暗く、高所からの空撃くうげきを得意とする彼には恐らく不利な地形だろう。
確かに弓の腕は目を見張るものがある。戦いだってハイラル城下町を襲ったときが初めてではないはずだ。
だから、きっと大丈夫。……そうやって何度も言い聞かせているのに、張り詰めた心がいつまでも納得せず、部屋に戻るなりこうして窓辺から空を見上げて、何度も星に祈っていた。

「どうか、彼が……彼らが、無事に帰還できますように……」

「そんなところで何を一人でボソボソ呟いてるんだい?」

背後からかかった声に肩が跳ねあがる。
弾けるように振り向くと、いつからそこにいたのか、私をのぞき込むようにしてリーバルが立っていた。
夢中になってお祈りしていたせいかと思ったが、いつになく上機嫌な笑みに、またもやわざと足音を忍ばせたのだと悟る。

「またですか……。リーバル様、たびたび乙女の部屋に無断で立ち入るなんて悪趣味ですよ」

「まあ、そう堅いこと抜かすなよ。それに……」

しなやかに伸ばされた彼の手が、私越しにそっと窓の縁に添えられ、元より近い距離がますます縮まる。

「もうそんな遠慮するような仲でもないんじゃないかな……僕らは」

私の髪を梳かすように降りてきた指が、くるりと毛先を弄ぶように絡められる。

「そ、それは」

「少なくとも、僕はそう認識してる。てっきり君もそうだと思ってたんだけど……違ったのかい?」

探るような物言いの割に、どこか自信に満ちた眼は私の心情を見透かすように細められる。
わかってるくせに、私の口から言わせたいのだ、この人は。

「そんな言い方……ずるい」

「……なーんてね」

冗談めかすように耳に吹き込んでくる彼にとうとう耐え切れなくなった私は、押しのけようと彼の胸当てに手をかけた。
しかし、その手は易々と捉えられ、強い力で彼のかいなに引き込まれる。
強引なはずなのに、それがなぜか今は心地よいものに感じられる。ああ、こうしてほしかったんだと、力強い腕に抱かれ、ようやく思い至る。

「……何の心配をしてるんだか知らないけど」

閉じ込めるように抱きしめられて、息苦しいはずなのに、愛しさとともに熱いものが込み上げてきた。

「君は、ただ僕のことを信じて待っていればいいんだ。……わかったかい?」

先ほどまでのからかいようとは打って変わった静かな声で諭され、何度も頷きながら彼の背を抱いた。

「絶対に、ご無事でいてくださいね……」

返事の代わりに、ポンポンと頭をなでられる。

「いつだか僕に食らいついてきた君から、まさか涙ながらに無事を祈られるとはねえ……」

茶化すような口振りに、またか、と深いため息がこぼれる。
せっかくのいい雰囲気に水を差されたお返しに、少し困らせてやりたくなった私は、恥を忍んで口にした。

「当たり前です。私たちは”そういう仲”なんですから」

「え……」

珍しく面食らったような顔の彼にしたり顔で笑みをこぼすと、悔しそうに眉を潜めながら、仕返しの口付けが送られた。

(2023.02.14)

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