聖なる子守唄

15. 密会にて

事前の通達によると決起集会を兼ねて一連の放火事件の情報共有を行うとのことだったので、てっきり多くの役人や兵が食堂に詰めるものだと考えていた。
しかしここには、ハイラル王、ゼルダ、ウルボザ、リンク、リーバル、私を除いては、インパ、と数名の兵士のみ。兵士たちは、町での放火事件の対処にあたった者のなかから選抜されたとのことだ。
集められた顔ぶれや少人数であることから、表立たずに調査をするという意図は教わらずとも計り知ることができた。

ウルボザやリーバルのように貴賓や名士であればまた別かもしれないが、召使いが王族とともに食事を取るといったことは前例がない。
リンクやインパは落ち着いて見えるが、兵士たちの心情が穏やかでないことは彼らの様子を見れば明らかだ。それは私とて例外ではない。

手の震えを収めようとこぶしを握り締めると、密かに見ていたらしいリーバルが小さく「ふん」と笑った。
横目に咎めるような視線を投げかけると、彼は澄ました顔で目を閉ざしていた。微かに上がったままの口角が憎らしい。

そのとき、ひそひそと小声で耳打ちし合う兵たちをたしなめるように、ハイラル王が匙でグラスを打った。
それを合図に場は水を打ったようになる。

「これより会議をはじめる。議題はすでに周知のことであろうが、一連の放火事件についてじゃ。本題に移る前に、まずは各々の認識を合わせるべきじゃろう。……何か確認しておきたい事項はあるか?」

しん……と静まり返るなか、テーブルの端に座る新米らしい兵士が恐るおそる挙手した。

「無礼講じゃないんだぞ、慎め」

かたわらの兵がひそひそとたしなめるのをハイラル王が「よい」と片手を掲げ制す。

「新兵よ、何か気にかかっておるのであろう?遠慮は無用じゃ、申せ」

彼の表情がこわばっているのを気遣ってか、王は幾分か表情を和らげ言葉を選びつつ発言を促す。
王の高配に安堵の色を浮かべた兵は、気を取り直したように目つきを引き締める。

「恐れながら……犯人の目途はついておられるのでしょうか」

王はそうくるとわかっていたらしく、冷静に頷くとウルボザを示した。

「案ずるな。ゲルドの首領ウルボザより有力な情報を入手した。此度はその詳細をこの場の皆に共有すべく、遠路はるばる足を運んでもらったのじゃ」

そう述べながら王はウルボザに目配せをした。
彼女は小さく頷くと、腕を組みテーブルを見渡した。

「薄々気づいている者もいるだろうが、イーガ団の内部に犯人がいると睨んでいる」

ふたたび場がざわつく。
インパの「静粛に」の声に沈黙が下りたころ、ウルボザはふたたび青に縁どられた唇をゆったりと開いた。

「年のはじめからイーガ団の動きが活発になってきていてね。ゲルド高地周辺を警戒して部下たちに見回りをさせているんだが、彼女たちが仕入れた情報によると、どうやら内部で対立が生じているらしい。なんでも、一部の過激派がハイラルの分断を図っているんだそうだ」

「それが、今回の放火事件と一体何の関係があるというのです?」

ゼルダの疑問に、インパが何か思い至ったように顔を上げる。

「もしや……」

「古くは奴らとゆかりのあったシーカー族ならば察しはつくだろう。……そうだ。奴らは巧妙な術で化け、内部の犯行であると思わせるよう仕向けているのさ」

「事件の日、リーバルが戦火に紛れリンクの姿を見かけたとのことですが、それはまさしくイーガ団の変化へんげによるものである、と?」

「そういうことになるね。リンクについては城内で多数の者の目撃証言がある以上、事件現場にいなかった証明に十分なりえる」

余計なことを言うなと言わんばかりに私を横目に睨んだリーバルだったが、その眼光は怒りの矛先とともにすかさずリンクに向けられる。
明らかに腑に落ちない様子だが、ややあってそっぽを向いたところから自分の宛てが外れたことを悔しがっているようにも見えた。

(2022.04.18)

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