リーバルの日記

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コログの森の奪還作戦に参加した。
森上空を包囲する魔物をせん滅するのにメドーの導入が不可欠だというのに、この作戦のリーダーは僕ではなくまさかの姫付きの騎士だった。

異を唱えていた最中、楽士があろうことかこの僕に説教を垂れてきた。
リンクの下につくのが嫌なだけだろう、などと心外なことまで言う始末。

彼女の言い分もわからなくはないが、戦場においては実力がすべてだ。
ハイラル王が多くの騎士のなかからリンクを姫付きの騎士に任命したのだって、その腕を見込んでのこと。
これからわざわざ実績を積み上げずとも、遠方のヘブラまで僕を勧誘しに来た時点で僕の実力などとうに耳には入っていることだろう。
だからこそ、なおさらこの配役は順当とは言い難い。
もしも、だ。評判を知ったうえで力量を試されているというのなら、また別の話だが。

魔物をせん滅したのち、森で隊列に合流した際、集団に遅れて最後尾を走っていた楽士が足をもつれさせて転んだ。
(情けないことにほかの奴らは彼女の転倒に気づかないまま濃霧に消えてしまった)
先ほどの口論の一件が尾を引いていたため、置いていって困らせてやろうかとも思ったが、さすがにこれだけ霧の濃い樹海のなか置き去りにするのは酷だと割り切った。

彼女のけがは想像以上に深く、これでは追い付くのは難しいと判断し、やむを得ず背に乗せて連れて行こうかと思っていた矢先。魔物の気配を察知した。
無我夢中で彼女を抱えて森を駆け抜けた。
普段翼に頼り切っているため、人ひとり抱えて走るのがこんなにつらいとは思わなかった。
こういう事態に備え、今後は長距離走も鍛錬項目に加えることにする。

彼女を抱きかかえて走っている最中ちらりと様子をうかがうと、フードの奥の顔が少し赤らんでいるように見えた。
種族は違えど僕を男として認識しているということだろうか。
たまに気の強さを見せる割には案外奥ゆかしい一面もあるんだな。

敵の目から隠れている最中、彼女は自分の発言について謝罪してきた。
謝るくらいならはじめから……などと野暮なことはあえて言わなかった。そこは僕も同じだからだ。
互いに言葉の選び方をよく知らない者同士だが、不器用なりにも彼女の言葉には熱意があって、口で言うほど嫌な気はしていない。
まあ、痛いところを容赦なく突いてくる点については、多少腹が立ちはするが。

追記:
彼女がけがの具合を見るためにたびたび腰布(スカートというらしい)をたくし上げるのが気になった。
種族は違えど、男女であるということをわかっているのかいないのか。
それとも、ハイリア人の貞操観念は低いのだろうか。
僕らリトの下半身は元々羽毛に覆われているため、短い腰布を除けばわざわざ何かまとうなんてことはしないが、元々秘められているものが晒されるというのは、何というか……少々毒だ。

(2021.6.8)

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