リーバルの日記

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今日も各神獣の調整に赴いた。
各地に向かうのに僕の神獣が勝手遣いされるのは、まあ、予想通りだった。
なんでほかの奴らの調整にも立ち会わなきゃいけないのか。
正直シャクだが、ほかの奴らの操作を見て盗むのも一つの訓練だと思うことにする。

例の楽士と任務を共にしたのは今日が初めてだった。
ハイラル城下町の噴水広場を抜けるとき、ウルボザが彼女の住まいはこの辺りだと言っていた。
あの噴水の前で演奏を披露していたらしい。おすまし顔で笛を奏でる様子が目に浮かぶ。
しかし、音楽はあくまで趣味で、ポストハウスのバイトで生計を立てていたというのには驚いた。
仕事と趣味を両立するなんて発想がなかった。
好きなこと、か……。がむしゃらに弓を握ってきたが、僕は弓が好きなのだろうか。
何とはなしにそう浮かべた僕に、彼女はこう言った。

「私にとっては、好きという気持ちこそが熱量であり燃料なんです。そうでないと続きません」

単なる趣味でしかない分際でそんなたいそうなことを言うのには笑ったが、その言葉はなぜか僕の胸にストン、と落ち着いた。

道中、イーガ団という赤い衣をまとった集団の襲撃に遭った。
古くはカカリコ村のシーカー族たちと同胞だったらしいが、先人たちの事情により敵対関係となってしまったとインパが言っていた。
人ってやつは、心底醜い生き物だ。有能すぎるからといって排除するなんて馬鹿げてる。
その浅はかさが後世の僕らの足を引っ張ることになろうとは考えもしなかったんだろうな。

任務の合間に特訓でもしたのか、楽士は新たな音色を習得していた。強力なつむじ風を巻き起こす技だ。
自分の活躍により後列の被害は最小限に抑えられたというのに、
敵の撤退後、労いの言葉でもかけてやろうと側に行くと、彼女は浮かない顔をしていた。
人に傷を負わせたことがないのだろう。

恐怖に歪み今にも涙をこぼしそうな顔を見ているうちに胸を締め付けられるような感覚になってきて、
思わず、その小さな頭に手をのせていた。
やんわりとたしなめると、彼女はすぐに涙をぬぐい、気丈に振る舞って見せた。その悲しげな笑顔にまた胸が苦しくなる。
なるべく顔を合わせないようにして、その場を去った。

自分の見せ場を奪ったとして白いガーディアンに責め立てられるリンクの姿は、なかなかに滑稽だった。
僕が何を言っても平然として仮面を外そうともしないくせに、あんな困った顔もできるんだな。
沈んだ顔をしていることの多い姫も、めずらしく楽しそうな笑顔を見せていた。

ミファーやダルケルと気さくに談笑するあの子の様子に、彼らが少しうらやましいと思ってしまった。
僕にはあんな顔をまだ一度も見せたことがない。

……いや、別に、なれ合いたいわけではないんだった。
ただの町娘だった彼女が一戦士としての伸び代を見せてくれたことに感心しただけにすぎない。
これは単に玄人としての感慨のようなものだ。

(2021.6.8)

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