リーバルの日記

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その知らせを受けたのは、早朝城の中庭を彼女と散策していたときだった。
まだ朝が早いというのにすでに身支度を整えたインパが、何やら深刻な面持ちでガノンの復活を告知した。

白いガーディアンのなかに眠るウツシエの解析結果によると、ガノンの復活までもう間がないらしい。
日に日に魔物が力を増し活発になるところをからしても間違いないのだろう。予言が現実になるってわけだ。

しかもその復活日というのが、どうやら姫の誕生日と重なるらしい。
あの姫も何かと不運に付きまとわれてさすがに気の毒だな。ま、だからといって慰めるなんて無意味なことはしないが。

肝心のガノンについてはまだはっきりしていないことが多く、例のもう一体の白いガーディアンに怨念の一部を宿しているのみで、本体がどこから現れるのか未だに誰もわからない。
どうかかってこられてもいいようにシーカー族の研究員や国中の戦力が総出で構えているが、はたして万全だと言い切れるのだろうか。
着々とできうる限りの対策が立てられてゆくなか、周囲の顔にはこれまで培ってきたものへの期待と未知数な敵への不安感のアンビバレンスな感情が入り交じっているように見える。
認めたくはないが、僕自身不安がないと言われれば嘘になる。

数多のものに己の力を分け与えられるだけの魔力を持つガノン……。
奴の力を得たからといってそこらのボコブリンやモリブリンは敵じゃない。けど、元凶はあれだけの魔物の大群を意のままに動かせるだけでなく、力を分け与えられるだけの能力を持ってるんだ。
正直、この話に乗ったときはどうせ大した相手じゃないと舐めきっていたのは認める。でも、今はこう思う。
もし僕が奴と対峙したとして、僕の放つ矢は奴に通用するのだろうか。
激戦に突入したあと、彼女を……アイを、守り通せるだろうか、と。

人が真剣に考えている横でだ。彼女が唐突に「姫の誕生日を祝おう」などと言い出した。
こんなときに冗談だろうと呆れかけたが、彼女の目は恐らくそのときの僕よりも真剣だった。

“これから毎年誕生日のたびに厄災と戦ったことを思い出さなきゃいけないなんて……あまりに酷です。
自分がこの世に生まれた日って、一年で一番特別な日なのに……。
だからせめて、私たちとともにあったことを一番に思い出してほしいんです”

彼女の言葉は、お気楽でも甘えでもない。
声こそ不安そうではあったが、言葉の持つ芯の強さを感じた。この戦いを終えた先の未来を見据え、誰よりも希望を信じている。そう思えた。

だから、柄にもなく彼女の提案に乗ってやろうという気になったわけだが、内容を聞いた途端にその気はすっかり失せた。
誰が好き好んで人前で歌わなきゃいけないんだ。それじゃまるで、子どものお歌の発表会じゃないか。
そんな提案に誰が乗るんだと馬鹿にしていたら、信じられないことにほかの神獣の繰り手たちは快く引き受けてくれた、と。おかげで僕だけが薄情者扱いだ。
とどめにリンクなら引き受けてくれただろうなどと煽られ、そのときは頭を下げられても祝ってやるもんかと本気で思った。

それからしばらくは神獣操作に集中していたため彼女やほかの奴らと会うこともなく、そのあいだに怒りが冷め、こっそり祝いの場にいてやるくらいならいいかという気にはなった。
それもこれも、あの子が「自分がこの世に生まれた日は一年で一番特別な日」だなんて言っていたことを思い出したせいだ。
あのときはあの姫のために言ったんだろう。けど、不本意だが、彼女にそう言わしめた姫が少しうらやましいと思ってしまった。ほんの少しだ。

……いつか、僕のこともあんなふうに一生懸命祝ってくれるだろうか。

(2021.11.11)

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