リーバルの日記

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アッカレ砦奪還の労をねぎらい祝杯があげられた。
程よく酔いが回り喧騒にも疲れてきたころ、早々に休むべく広間を去る僕に姫が食事ののったトレイを差し出してきた。彼女がまだ食事をとっていないとのこと。
僕にも先に休むと言っていたことを思い出しつい自然にトレイを受け取ろうとして、我に返った。僕らの関係は秘密にしていることを思い出す。
なぜ給仕ではなく僕に食事を運ばせるのかと問えば、姫はとぼけるような顔で視線をあさってに向け「部屋に戻るついでに、これを持って様子を見てきてほしいと思っただけです」などと返ってきた。
白々しい。あれで誤魔化せたとでも思ってるのだろうか。

内心彼女に会いにいく口実ができたことを喜びつつ部屋を訪ねると、なかから消え入るような応答が返った。
いつもなら僕が声をかけてやっただけでわかりやすいくらい嬉しそうにするくせに、この日の彼女は僕が催促するまで扉を開けようともしなかった。
昼間の一件が傷になってるんだろうとすぐに察しがついた。

予め考えておいた言い訳をみっともないと思いつつ連ね、念のためあの件も問いただしておいた。
呆れたことに、僕らの関係は口外するなと釘を刺しておいたのに、姫とウルボザにはすでに勘づかれてるらしい。
秘湯の夜、あまり干渉しないはずのリンクにも彼女とのことを探られたし、この分じゃほかのやつらにもすでに知れている可能性が高い。
公の場ではこれまで通りに振る舞ってるってのに、勘のいいやつが多くて困る。

苦しむ彼女にどんな言葉をかけべきかなんて、これまで誰かを慰めたことのない僕にはわからない。
彼女がどんな言葉を欲してるのか、僕に何がしてやれるのか。

ただ彼女のことを想い、浮かんできた言葉を声にのせた。
それで良かったのかはわからない。
けれど、彼女は僕の言葉に涙を流し、満足そうに何度も頷いた。

僕にもっと惚れそうだなどと言われ気分が舞い上がったが、あれだけ自分らしからぬ言葉を並べ立てておきながら、僕も同じ想いだと、その一言だけはどうしても言えなかった。
度胸はあるほうだが、彼女を前にするとどうも調子が狂う。

追記:
あの厭わしい占い師が残した”印”は上書きしてやった。彼女は、僕のものだ。


 
彼女の日記を見てしまった。
見たこともない記号のようなものが書き連ねられ、内容は理解できなかった。

驚きはしたが、思い返せば彼女の不可解な言動については思い当たる節がいくらでも見つかる。
僕の憶測が正しければ、彼女は、ハイラルの人間じゃない。

追記:
僕らの似顔絵とステータスのようなものが詳細に書きこまれたページを見つけてしまった。
……内容が気になって眠れそうにない。

(2021.9.16)

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