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秘湯で湯浴み

ほのぼの。夢主視点。
リーバルが見つけたという秘湯に連れて来られるお話。


 
リーバルに連れられ、東ハテールのヒメイダ山にある温泉にやって来た。
ウオトリー方面に出かけていたリーバルが、その帰路、ヒメイダ山の上空を飛んでいたときに見つけたという。

リーバルは「僕は入らないよ!」となぜか焦った様子で、近くの大木に腰を下ろすと、せっせと焚火の準備に取りかかってしまった。

寒冷地でも耐えられる羽毛をまとうリト族の彼には、山の中とはいえヘブラより暖かいこの地で、焚火は不要なもの。
私が湯冷めしないようにとわざわざ火をおこしてくれているのだ。

ここへも私のために連れてきてくれたんだろうなあと思うと、自然と顔がほころぶ。

だが、リーバルは入らないのに自分だけ服を脱いで入るというのは、少々どころかかなり恥ずかしいものがある。

「絶対に見ないでくださいね!」

私はお礼を言うのも忘れて念を押すようにそう言うと、ためらいながらも服を脱いだ。

「ふん。君たちはどうせ生まれたてのひな鳥みたいな体してるんだろ。
仮に君の裸を見たところで何も感じるはずがないね」

「ふふん、こう見えて、胸はそこそこあるんですから」

上半身を風にさらしながらそう言うと、リーバルの肩がびくりと揺れ、くぐもったうめきが声が聞こえた。
リーバルは一瞬こちらを振り向こうとしかけたが、思いとどまったらしくこぶしを握って、ぷいとそっぽを向いた。

「……っ!
君ねえ、男に軽々しくそういうこと言うもんじゃないよ」

あからさまに照れている彼の様子に、私を女と認識してくれているのだと思うと、嬉しいような、こそばゆいような、何だか奇妙な感じだ。

脱ぎ終えた服を手近な岩場に重ねて乗せ、さっと湯に浸かる。
熱すぎず、ちょうど良い湯加減だ。
岩にもたれて座り込み、リーバルの様子をうかがう。

彼はこちらに背を向けて焚火の前にあぐらをかいているようで、後頭部の三つ編みが揺れるのが湯煙越しにかすかに見えた。
どうやら、膝に肩肘をついて、遠くを眺めているようだ。

あの方角は、遠方に双子山がくっきりと見える。
まさに隠れた絶景スポットなのだろうが、リーバルを意識しすぎて景色を楽しむ余裕などあるわけがない。

脱いでいるあいだも彼がいつ振り向くかとひやひやしたが、そんな卑しいことをするような人ではないよな。
脱ぎ終えて湯船につかってからも一度たりともこちらを振り向かなかった彼を見て、心の中で詫びを入れる。

温泉のぬくもりが、芯まで冷えた体に染みわたり、その心地よさに私の心はこの上ない幸福に包まれた。

「はあ……あったかい……。
リーバルさん、こんないい温泉に連れてきてくれてありがとうございます……」

目を閉じ、やっと礼を述べると、彼は「ふん」と鼻を鳴らした。

「また気が向いたら連れてきてあげるよ」

「今度はリーバルさんも一緒に入りましょうよ」

冗談めかしてそう言うと、リーバルは今度こそ振り向いて怒り始めたので、思わず温泉のお湯を顔面にお見舞いしてしまった。

終わり

(2021.2.26)

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