ハイラル王国から、神獣の繰り手になってほしいと依頼された。
神獣を動かすのには、聖なる強い力が必要とのこと。つまりはリト族一の腕利きである僕が適任ってわけだ。
魔物を引き連れてきたやつと瓜二つのガーディアンという遺物を連れて現れたものだから、てっきりまた里を襲いに来たのかと思った。
同胞はみね打ちを食らっただけで誰一人とて重症は負わされてはいないようだ。大事に至らずに済んで良かった。
手合わせをしたあのハイリア人…リンクという名前らしい。
姫付きの騎士に任命されるだけあって実力の高さは確かだ。なんせ、疾風と謳われるこの僕の攻撃を防ぎ続けたのだから。
まあ、あのときはちょっと手加減してたしな。もし僕が本気を出していたなら、さすがについてこられなかっただろうけど。
しかし、気になるのは彼のことだけじゃない。僕と彼の一騎打ちに乱入してきた、あの女。
おそらくハイリア人かと思われるが、フードとマフラーで顔を覆っているため、目元しかわからなかった。
リンクでさえ僕に一太刀も入れることができなかったというのに、一瞬で詰めてきて、僕らのあいだに割って入ってきた。
どうやら楽器を奏でることで特殊な力を発揮することができるらしい。
一瞬で距離を詰めてこられたのは、時を一時的に止めることができる効果をもたらす音色によるものだそうだ。
そんな魔法じみた力を持つやつが、この世界にいたなんて。
顔なんて隠して自信がなさそうにしてるから、てっきり気弱な奴なのかと思ったが、芯は強いらしい。
僕の皮肉にも臆さず、インパとかいう執政補佐官をなだめ、きっぱりと言い返してきた。
“守るべき人の血が流れずに済むのなら、いずれ伸びる髪などいくらだって捧げられます”
何とも芝居じみたセリフだと思った。
けど、そう言った彼女の目はまっすぐに僕を見据え、不覚にも釘づけにされてしまった。
ほんの少しだけ、興味が湧いた。
無性に腹が立つのに、なぜか心が浮き立つような感覚。
自分でもよくわからない感情に叫びたくなったが、そんな小恥ずかしいことできるわけもなく。
気晴らしにバクダン矢を的に当て散らかしてやった。
(2021.6.7)