私とリーバルが出会うよりも前に行われた弓術大会にて、彼が優勝したという話をリトの村の村人に聞いた。
しかも、それだけではなく、これまでも連勝し続けては自身の記録をも塗り替え続けているというではないか。
一度でも優勝するということはとてもすごいことなのに、あろうことかずっと連勝し続けているなんて。
もし私が彼の立場だったら、嬉しさよりもどんどんハードルが上がっていくことで、プレッシャーに押しつぶされてしまいそうになるだろう。
けれど、リーバル自身はそんなことをおくびにも出さず、果敢にも自分の記録になおも挑戦し続けている。
そんな彼を誇らしいと思うが、同時に不安にも思う。
彼はしばしば軽口に自分の実力を誇示したがるが、その言動とは裏腹に、そこには人よりも何十倍もの努力を積み重ねているのを、私は知っている。
彼が今の実力に至るまで、何度も失敗し、何度も立ち向かう様を、幾度となく目にしてきた。
そんな彼を、私なりに労えないだろうか。
そんな思いから、防具屋を覗いていたとき、店主に話しかけられてから、今に至る。
「あなたは、リーバルの連れの……アイさんと言いましたか。
今日は彼と一緒じゃないのですね」
「ええ。彼は今、飛行訓練場に。
新しい技を編み出しているとかで最近はずっと訓練場にこもりきりなんです」
「あいつらしいな。
それで、アイさんはリーバルに何かプレゼントを……ってわけですか」
店主の目ざとさにあたふたしながらも、「はい……」と潔く認める。
すると、店主はやっぱり!と笑いながら、店の棚から一枚の大きな布を手渡してきた。
長さからして、スカーフだろうか。
彼が普段腰に巻いている防具と同じくバーガンディのような濃い赤だ。
リトの織物によく見られる意匠が布の端にあしらわれ、垂らす部分にはリトの紋様が描かれている。
「これは、弓術大会のゲン担ぎに織ったものなのです。
毎年弓術大会が近づくと彼が新しいスカーフを買い求めてくれるので、今年こそは特注品を渡そうと仕立てていたのですが、結局間に合わなくてね。
別の織物を渡したもので、持て余していたところだったのですよ」
あなたから渡してあげたら喜びますよ、と至極嬉しそうに渡されたので、私も照れ笑いを浮かべつつ、ありがたく受け取る。
こんなに慕われている彼が誇らしく、より愛おしく感じられた。
防寒を整えて飛行訓練場に向かうと、私に気づいた彼がちょうどやぐらに降りてきたところだった。
「アイ!ちょうど良かった。
そろそろ引き上げようと思っていたところさ」
「良かった、すれ違いにならなくて」
「……それは何だい?」
リーバルが私が後ろ手に持っているものをヒョイと取り上げる。
あっという間もなく、彼は畳んであったスカーフを広げてしまった。
「これを、僕に……?」
「防具屋のご主人がね、あなたのために仕立てたものなの。
本当は弓術大会の前に渡したかったみたい」
防具屋の主人からは、私からと言って渡すよう言われたが、そんなずるいことはできなかった。
「……君からのプレゼントかと思って期待したじゃないか」
リーバルはツンとそっぽを向くと、ぼそりとつぶやいた。
しかし、スカーフにちらりと目を戻すと、首に巻いているスカーフを外し、渡したスカーフをくるくると巻いていく。
「どうだい?似合ってるだろ」
口では自信ありげにそう言いながらも、私の様子をうかがうようにちらりとこちらに視線を投げかけてくるのがちょっとかわいい。
濃い赤が彼の紺色の羽毛をよりクールに引き立てて、胸がきゅうと締め付けられる。
「……かっこいい、よ」
ぼそりとつぶやくと、彼は照れを隠すように一つ咳ばらいをし、目を細めて口角を上げた。
「ふん、当たり前じゃないか、そんなこと」
リーバルはそう言いながら先ほど外したスカーフを私の首にかけると、ぐいっと引き寄せてきた。
頬にくちばしをこすり付けられる。
「なっ……」
「今回はこれで勘弁してあげる。
でも、次はちゃんと君自身がプレゼントを用意してくれよ?」
リーバルはそう言うと、口づけられて固まったままの私にひらりと手を挙げ、村への道を歩き始めた。
頬に熱が集中するのは、首にかけられたスカーフの温もりのせいだ。
そう必死に言い聞かせながら、彼の後を追った。
終わり
(2021.3.8)