飛行訓練場からの帰路、リト村の広場にハイリア人が数名集まっているのが空から見えた。
そのなかでひときわ目立つ金色の長い髪の女性は、兵装に身を包む人に囲まれて何やら話し込んでいたが、こちらに気づくと、手を高く上げて呼びかけてきた。
「リーバル!」
凛としたたたずまいの、笑顔が素敵な少女だ。
リーバルが広場に降り立つと、私たちを縛っている縄を外している彼に、少女は歩み寄ってきた。
「そろそろ戻ってくるころだろうとうかがったので、こちらで待たせていただいていました」
どうやらお互い顔見知りらしく、リーバルは親し気に話し始めた。
「久しぶりじゃないか、姫。
復興は捗ってる?」
なんと!お姫様だったのかこの子…!
どうりで洗練された雰囲気なわけだ。
しかし、お姫様と知り合いだというリーバルは一体……。
リーバルとの再会に顔をほころばせていた姫の顔は、彼の問いかけに曇る。
「ええ、職人の皆さんが奮起して城の再建に取り組んでくれています。
ですが、一つ懸念すべきことが……」
言葉を濁す姫に、リーバルは目を細めると、後ろ手を組んで彼女に背を向けた。
こちらには私が立っているので、彼とはた、と目が合うが、この状況にアウェイ感を募らせていた私は、すっと視線を外した。
「……ふうん、その様子じゃ、何か困ってることがあるんだろ。
で、この僕に何をしろっていうんだい?」
「相変わらず、話が早くて助かります。
……実はーー」
姫の話によると、ハイラル城および城下町は私が目覚める以前に起こった大厄災により崩壊し、厄災が終息を迎えてからこの1年、国中から腕利きの大工職人を集めて修復にあたっているらしい。
だが、その厄災の元凶を絶ったとはいえ、未だこの国に敵対勢力の残党がはびこっていることには変わらず。
たびたび訪れる敵襲に対抗するには、厄災で半数にまで減った兵士たちでは手が足りず、修復作業にも影響が出ているとのことだ。
「なるほどねえ。リトの村でもうわさくらいは聞いていたけど、そういうことになってたんだ」
「未だ、住むところもなく生活苦を強いられている民がいると聞きます。
一刻も早く城と城下を立て直さねば、真の意味で安寧をもたらしたとは言えません」
リーバルは彼女の真摯な言葉に何か思うところがあるのか、目をつむると、考え込むように沈黙した。
そう思いきや、肩眉を上げ、おどけたように「ん?おかしいなあ」とつぶやいた。
「君ならまず僕ではなく、何て言ったかな。確か、退魔の剣の剣士……リンク、だったっけ?
彼の力を借りると思ってたけどね」
リーバルが「彼はどうしたんだ?」と振り返ると、姫はふるふると首を横に振った。
「いかんせん、人手不足なので、彼も使いに出しているのです。
ミファーとダルケルのもとに向かわせているのですが、かれこれ1週間ほど連絡が取れず……。
優秀な彼のことです。息災であると信じているのですが……」
その言葉に眉間のしわを深め、「ちっ」と舌打ちをするリーバル。
そのリンクと呼ばれる人物と何らかの因縁でもあるのだろうか。
「気に入らないなあ。
彼が不在になった途端、僕を二番手にご指名とはね」
一国の姫を前に宙を仰ぎながら、手をひらりと振るリーバルは、非常に無礼だ。
だが、姫はそんな彼の態度にも毅然とした態度を崩すことなく、きっぱりと言い切る。
「そうではありません。
英傑の皆にお願いしたいのは、一時的な復興の援助ではないのです」
姫は、一歩下がると、兵士の制止も聞かず、彼に首を垂れた。
姫の行動に、さすがのリーバルも動揺を隠さず目を見開いた。
「今一度、頼みます、リーバル。あなたの力を貸してください。
そして、ひいてはハイラル全土を守る役目を担っていただきたい」
「姫が僕に頭を下げようとはね……」
頭を抱えて首を振ると、リーバルは少し不機嫌そうに顔を横に向け、じとりと姫を見やった。
「要するに、ハイラル城お抱えの兵士として奉公しろってわけ」
「その通りです。お願いできますか?」
リーバルは悩まし気に腕を組むと、しばらくしてうなずいた。
「……いいだろう。ともに厄災を打ち倒したよしみだ。
引き受けてやろうじゃないか」
「では……!」
「ただし、条件が三つある」
リーバルは人差し指を姫の眼前に突きつけると、食い気味に言った。
姫はそう来るとわかっていたように目を閉じる。
無表情を保ってはいるが、少し呆れているように見えなくもない。
「僕をリンクの配下にしないこと。
ハイラル城の専属にしないこと。僕はリト族一番の戦士だ。村を守るという役目があるからね。
そして、三つ目」
リーバルは早口にまくしたてると、唐突に私を振り返った。
今度は真っすぐに私を見つめてきたので、私も目が離せず、真っすぐ見返す。
「アイを僕の側つきにしてほしい」
(2021.2.18)