包丁やまな板、ボウルなど料理に必要な道具はそろっているようなので、ひとまず野菜の皮むきをすることにした。
村の誰かが刃を研いでくれているらしく、切れ味はなかなか。
りんご以外包丁で皮むきをすることなんてなかなかないため、もう少し苦戦するかと思っていたが、好調だ。
じゃがいもはすでに土を落としてくれているので、軽くすすいで皮をむき、8等分に。
ラディッシュは葉を取ってバツ印の切り込みを入れる。
すべての材料を切り終えたタイミングで、リーバルがマックスサーモンを手に戻ってきた。
「へえ、なかなか早いんじゃない」
「あ、おかえりなさい」
それとなく迎えたたつもりだが、なぜかリーバルが一瞬目を見開いたのを見逃さなかった。
リーバルは一人で暮らしているようなので、もしかしたら「おかえり」と言われる機会がないのかもしれない。
「アイ、魚はさばけるかい?
まさか、お礼がしたいと言っておいてできないなんて言わないよね?」
照れ隠しだとわかったが、それよりも、魚がさばけるかだと?
馬宿で宿泊客に料理をふるまっていたため、そこそこできるほうだと自負していたが、魚をさばいたことは一度たりともない。
元の世界のころさばけていたかなど覚えているはずもなく。
「ごめんなさい、さばいたことないの」
うつむいて謝ると大げさなため息。
だが、リーバルの顔はなぜか嬉しそうだ。
「まったく、しょうがないな。
それじゃ、僕が手本をみせてあげようか」
言うが早いか、リーバルは私の手から包丁を奪うと、マックスサーモンをさばき始めた。
手慣れた様子で鱗を削ぎ、包丁が差し込まれ、身がすっと開かれてゆく。
「すごい……!上手だね」
「当たり前だよ。マックスサーモンは僕の好ぶつ……」
尻すぼみになり、最後は咳払いで誤魔化されたが、はっきりとこの耳に届いた。
「マックスサーモンおいしいよね。私も大好き」
「ふ、ふーん、君も好きなんだ……。
じゃあ、分けてあげなくもないかな」
マックスサーモンがなかったら野菜だけではないかと怒ると、「ごめん、ごめん。君たちは魚も食べられるんだっけ」ととぼけるようなことを言いながら笑われてしまった。
まったく、どこまでも意地悪な人だ。
(2021.2.8)