宙にたゆたう

4. その鷲、好物をさばく(夢主視点)

包丁やまな板、ボウルなど料理に必要な道具はそろっているようなので、ひとまず野菜の皮むきをすることにした。
村の誰かが刃を研いでくれているらしく、切れ味はなかなか。
りんご以外包丁で皮むきをすることなんてなかなかないため、もう少し苦戦するかと思っていたが、好調だ。

じゃがいもはすでに土を落としてくれているので、軽くすすいで皮をむき、8等分に。
ラディッシュは葉を取ってバツ印の切り込みを入れる。
すべての材料を切り終えたタイミングで、リーバルがマックスサーモンを手に戻ってきた。

「へえ、なかなか早いんじゃない」

「あ、おかえりなさい」

それとなく迎えたたつもりだが、なぜかリーバルが一瞬目を見開いたのを見逃さなかった。
リーバルは一人で暮らしているようなので、もしかしたら「おかえり」と言われる機会がないのかもしれない。

アイ、魚はさばけるかい?
まさか、お礼がしたいと言っておいてできないなんて言わないよね?」

照れ隠しだとわかったが、それよりも、魚がさばけるかだと?
馬宿で宿泊客に料理をふるまっていたため、そこそこできるほうだと自負していたが、魚をさばいたことは一度たりともない。
元の世界のころさばけていたかなど覚えているはずもなく。

「ごめんなさい、さばいたことないの」

うつむいて謝ると大げさなため息。
だが、リーバルの顔はなぜか嬉しそうだ。

「まったく、しょうがないな。
それじゃ、僕が手本をみせてあげようか」

言うが早いか、リーバルは私の手から包丁を奪うと、マックスサーモンをさばき始めた。
手慣れた様子で鱗を削ぎ、包丁が差し込まれ、身がすっと開かれてゆく。

「すごい……!上手だね」

「当たり前だよ。マックスサーモンは僕の好ぶつ……」

尻すぼみになり、最後は咳払いで誤魔化されたが、はっきりとこの耳に届いた。

「マックスサーモンおいしいよね。私も大好き」

「ふ、ふーん、君も好きなんだ……。
じゃあ、分けてあげなくもないかな」

マックスサーモンがなかったら野菜だけではないかと怒ると、「ごめん、ごめん。君たちは魚も食べられるんだっけ」ととぼけるようなことを言いながら笑われてしまった。
まったく、どこまでも意地悪な人だ。

(2021.2.8)

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