宙にたゆたう

13. その鷲、風まとう娘と共闘する(夢主視点)

リーバルとゼルダは、ほかの英傑の方々と合流するために城の中庭へ行ってしまった。

ベッドで安静にしていろと言われたものの、数日眠りっぱなしだったせいか目が冴えており再度眠ることなどできず、ぼーっとして時間を過ごすことにする。

そういえば、先ほどリーバルに話しそびれたが、女神様から私はある能力を授かったのだった。
その能力が本当に使いこなせれば、眠っていたときに体験したできごとの信ぴょう性が増すに違いない。

そう思い至った私は、上体を起こすと、ベッドの淵に腰かけた。

何とはなしに指先をくるくると回し、小さな風が起こるのをイメージする。

想像通り、私の指の動きに合わせ、小さな風がビュウ、と起こった。

半分確信してはいたものの、想像がそのまま形となったことに心底驚く。

「すごい……!」

部屋にあるものを浮かせられないか試してみる。
鞄や枕、椅子など試せるものは一通り試した後、今度は、自分の体を浮かせられないか試してみることにした。

これが可能なら、高所恐怖症が克服できるだけでなく、実戦でももしかすると役立てられるかもしれない。

そう意気込み、自分が宙に浮くことをイメージしてみる。

しかし、こればかりは想像通りにはいかなかった。
地面から少し浮きはしたが、自在に飛べるまではいかない。

「やっぱり、そううまくはいかないかあ……」

独りごちていたときだった。

甲高く不快な鳴き声の大群が、窓のすぐそばを通過したのが見えた。
それとほぼ同時、外から兵士たちの叫び声が届く。

ただごとではないと察し、弓と矢筒を引っ掴むと、窓の側に駆け寄る。
しかし、外の様子をうかがうにはこの窓は小さい。

彼の部屋は、確かバルコニーがあったはずだ。
急いで靴を引っかけると、矢筒を背負い、リーバルの部屋に向かった。

いないとわかってはいるが、念のためノックを鳴らしてドアノブをひねる。
彼はどうやら鍵をかけていかなかったようで、ドアはあっさりと開いた。

そのままバルコニーに飛び出し、下を見下ろす。

城の庭にはボコブリンやモリブリンの大群が至るところに蔓延し、辺りを蹂躙していた。
兵士たちが城内に踏み入らせまいと剣や槍を振るっている。

そのなか、城の上空で不安定に飛ぶ姿が目に留まる。

「リーバル!」

リーバルは、絡みつくキースの大群を手で振り払いながら飛び回っている。
キースたちが彼の体にまとわりつくように飛んでいるせいで、弓を引くのに苦労しているようだ。

「助けないと……!」

バルコニーの手すりを掴み、身を乗り出すが、真下の風景を見下ろし、血の気が引く。

さっきは物を浮かせることはできたが、自分は少ししか浮かなかった。
女神がくれた能力とはいえ、まだ使いこなせてもいないのに、もし飛行に失敗したら……?

“もしも”が不安を煽り、自信がしぼんでゆく。

そんなことを考えているあいだにも、リーバルの翼をキースが攻撃し、彼は体をよろめかせ、ついに城塞の上にまで追い詰められてしまった。

「だめ……やめて!!」

私は、キースたちに向かって手をかざした。

暴風が巻き起こり、リーバルの体からキースをどんどん引きはがしてゆく。
その光景を不思議そうに見ていたリーバルが、こちらに気づいた。

「おい、よせ!アイ!!」

彼がこちらに向かって叫ぶのが聞こえたが、そのときすでに私の体は宙に飛び出していた。

無我夢中だった。

どうやったのかは思い出せないが、私は確かに飛べた。
だが、それに感動する余裕などなく。

止まり方がわからず、そのまま彼の胸に飛び込む形になってしまう。
彼は私を傷ついた両翼で受け止めてくれた。

慌てて上体を起こそうとするが、リーバルはそれを制止するように私の上に馬乗りになった。
その表情はこれまでにないほどの焦りと怒りを孕んでいる。

「急に窓から飛び出すなんて馬鹿なんじゃないの!?
あのまま転落したらどうするつもりだったんだい!!」

「ごめんなさい。
でも、どうしても助けたくて……必至だったの」

そこまで言うと、リーバルはようやく身を起こし、私の手を引いて立たせた。
そして、腰の巾着から薬を一瓶取り出し、一気に飲むと、渋い顔をしながらこう言った。

「まあ……、こうして助けてもらったわけだし。
来てくれないよりは良かったんじゃない」

「リーバル……」

でも、と彼は続ける。

「僕を助けるためとはいえ、急に窓から飛び出すなんてもうやめてくれよ?
心臓が飛び出すかと思ったんだからね。
あと、君がさっき使った能力のこと、あとでちゃんと説明しなよ」

「うん……わかった」

私が力強くうなずくと、彼は微かに目を細める。
その表情はすぐに引き締められ、弓を構え直すと、翼をはためかせて舞い上がった。

「ここまで来たんだ。
今更城内に帰す余裕はないからね!」

「わかってる!」

空高く舞い上がり弓を引き始めた彼に倣い、私も矢筒から矢を一本取り出す。
弓につがえ、弦を引き絞ると、城壁の下でわらわらと群がっているボコブリンに放った。

(2021.2.27)

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