アイを同行させたいと言う僕に、姫は物めずらし気に僕と彼女をまじまじと見ると、納得したようにうなずいた。
その顔がちょっと嬉しそうなのが癇に障る。
彼女の事情については僕から簡単に説明しておいた。
姫は彼女の耳の形を見ると、ハイラルに耳の短い方がいたとは…と驚いた様子だったが、それ以上深く追求してこなかった。
僕を信用してこそだろう。
姫の案内で城の修復が済んだエリアに連れて来られた。
当然のことながら、僕とアイはぞれぞれ別の部屋を宛がわれた。
姫は僕に自室の鍵を渡すと、アイを連れてすぐ隣の部屋に入っていく。
そのあいだに、僕も自分の部屋を確認することにし、ひとまず荷物を手近な床に下ろした。
僕がここに来ることは想定されていたらしく、高い天井の中腹にハンモックが吊り下げられている。
まったく、気の利いたことをしてくれる。
部屋の奥にはバルコニーに続く大きな窓がある。
万一のときはここから飛べということだろう。
そういえば、とバルコニーに出て下を見下ろす。
確か、この近くに敵を一網打尽にするための囲いがあったはずだ。
広くはないがあそこなら高さがある。僕が飛びながら彼女に弓を教えられそうだ。
「やれやれ……。
やっと気が休まると思ったらこれだよ。
いつになったら平和が訪れるのやら」
一人愚痴をこぼしていたとき、隣室から二人の話し声が聞こえてきた。
ひそひそ話しておりはっきりとは聞こえないが、どうやら僕の話をしているようだ。
隣に向かうと、開けっ放しの扉に呆れながら、入り口の壁に腕組みをしてもたれ様子をうかがう。
僕が入ってきたことにすら気づかず、話し込んでいる。
「……しかし、彼はなぜ私をここへ連れてきたのでしょうか。
城までの道中は幸い敵襲もありませんでしたが、兵が常駐しているとはいえ、決して安全とは言い難いのですよね」
「ええ。私もそのようにお伝えしたのですが……。
彼の考えることはわかりやすいようでいて、突飛なこともあるので」
「さっきから何をこそこそ話してるんだい?」
僕の声に、ふたりの肩がびくりと跳ね、驚いたようにこちらを見た。
姫がアイのうしろから顔をのぞかる。
「リーバル!いつからそこにいたのですか」
「今来たところだよ。
僕の話をしているように聞こえたけど、何の話だ?」
問い詰めると、アイはなぜか顔を赤くしながら、両手を振った。
なにか余計なことでも話してたんじゃないだろうね。
「ううん、何でもないの!
ごめんなさい、待たせちゃったよね」
「まあ、いいさ。
ところで、城の訓練所は使える?
この子に弓を教えたいんだけど」
姫はアイと話が弾んでいたのか、顔に笑みを浮かべながらうなずいた。
「ええ。階段の修復は終えているので構いません。
今のところは作業も滞りなく進んでいるようですし、連れて行ってあげてください。
何かあればお声がけします」
「……わかった。アイ、ついてきなよ」
部屋から出ていくとき、アイが姫に礼を言うと、彼女はいたずらっ子のような笑みを浮かべ、手をひらひらと振った。
何がそんなにおかしいんだ?
僕の後ろを小走りでついてくるアイを見やると、相変わらず頬を染めている。
あの姫に何を言われたんだ一体。
(2021.2.21)