短編

豪雪の山小屋にて

ほのぼの~微甘?夢主視点。
リーバルから疎まれていると悩む夢主(騎士)。ある日、リーバルと二人きりの任務に宛がわれてしまう。


 
私には一つ悩みがある。
それは、リト族のリーバルとの交流がうまくいっていないことだ。

ほかの英傑メンバーたちとは出会ったその日に打ち解け、今では気兼ねなく話せる仲なのだが、リーバルとは事務的な話以外まともに会話ができていない。

まず二人きりになることがないせいもあるのだが、みんなと話していても彼は私には話を振ろうともしないし、私が話しているときは聞く耳を持たずほかのメンバーと話をし始めるか、さもすれば一人でふらりとどこかへ飛び立ってしまうこともある。

私はゼルダ姫の側付きのため、必然的に僚友であるリンクと行動を共にすることが多いのだが、リンクに対し執拗なほどメラメラ対抗心を燃やすリーバルは、しばしば私のことも同一視している節がある。

リンクには露骨なまでに嫌悪感むき出しで正面切ってぶつかっていくので、私に対する態度は比較的落ち着いて見えるものの、同じくらい敬遠されていることはほかの英傑たちとの態度の差を見れば一目瞭然だ。

わけもわかないまま向けられる嫌悪ほど対処しようのないものはないとつくづく思い知らされた。
そういうこともあって、いつしか私もリーバルに苦手意識を感じるようになっていった。

そんなある日のこと。

姫様とリーバルが廊下で神妙な面差しで話し込んでいるのを、私は一歩引いたところで聞いていた。

「ヘブラ山の魔物が活発になってるって、仲間から報告を受けていてね。
悪いけど、状況確認のため一度故郷に帰らせてもらうよ」

後ろ手を組んだリーバルは、視線を窓の外に向けながら事情を説明した。
その目は不機嫌そうに歪められており、私が近くにいることが多少なりとも影響しているのではと思い至り、胸がちくりと痛む。

「わかりました。
ちょうどヴァ・メドーの調整に立ち合いたいと考えていたところですし。
ただ、こちらで調べておきたいことがあるので私は後日うかがいます」

「ありがたく数日はヘブラの対処にあたらせてもらうよ。それじゃーー」

「では、アイを同行させてください。
ヘブラ山は明日以降豪雪が続くとの予報ですので、万一のことがあっては大変ですから」

さっさと片手を挙げて去ろうとした彼を、姫様はまだ話は終わってないと言わんばかりにすかさず引き止める。

私は耳を疑い、足元に落としていた視線を上げ、姫様とリーバルを交互に見やる。
ちょうど彼も私を見ていたらしく視線がかち合うが、その直後、あからさまに顔を反らされ、不快そうに顔をしかめて姫様に詰め寄った。

「ちょっと、何言ってんの。
僕が疾風と謳われている所以をまさか知らないなんて言わないだろうね?
吹雪なんてそよ風も同然。飛べもしない人間の付き添いなんて、逆に足手まといにしかならないよ」

「おっしゃる通り、空の支配者であるリト族と我々の能力を比較すれば確かにそうでしょう」

姫様は私を見下ろし微笑むと、表情を崩さずリーバルに向き直る。

「ですが、アイは援護を得意としますし、剣の腕も立ちます。それに、料理上手ですよ。
豪雪で下山が難しい状況になったとしても、大いに役立ってくれるはずです。
加えてタバンタの出身ですし、近郷同士で何かと都合が良いと思うのだけれど」

「何なんだいその取ってつけたような理由は。
料理くらい僕一人だってどうにでもなるんだけど。余計な気遣いは無用だ」

しかし、姫様は食い下がらなかった。

「いいえ、連れて行ってください。
これはあなたのためでもあるのです。いいですね」

リンク以外には柔和な姫様がめずらしくきつい物言いをしたことで、さすがのリーバルもぐうの音も出せなくなった。
至極嫌々ながら「チッ……わかったよ」と吐き捨てると、私を一瞥し、踵を返して去って行った。

何だか、めちゃくちゃ嫌われてるなあ……。

冷ややかに注がれた視線に、もしかしたら自分の想像よりももっと心証が悪いのでは……と先行きの不安を感じていると、姫様がこちらに向き直ったので、慌てて首を垂れる。

「話は聞いていたでしょうから、説明は不要ですね。
アイ、リーバルをよろしく頼みましたよ。彼は意地を張るときほど無茶をしがちですから。
……くれぐれも、仲良くお願いしますね」

「かしこまりました」

くれぐれも仲良く。姫様の念を押すような言い方が少し気になったが、余計な詮索はしなかった。

いくら苦手な相手とペアだろうが仕事は仕事だ。
割り切ることに決め、何とかなると言い聞かせながら、遠征の準備に向かった。

急いでヘブラに向かうべく歩を早めて城下を目指す。馬を駆れば、夕方には近くの馬宿に着くだろう。
リーバルはすでにヘブラへ立ってしまったのだろうか。落ち合う場所だけでも事前に聞いておくべきだった……と、ハイラル城の門扉を抜けたときだった。

「うわっ!?」

出てすぐの城壁に腕組みをしてもたれているリーバルを見つけた。その顔はいつも以上に険しい。

山に入るなら兵服から厚手の服に着替えなければならず時間がかかってしまったため、てっきり現地集合かと思っていた私は彼の姿に拍子抜けし、変な声を上げてしまった。

覚悟していた通り、私を見つけたリーバルは目くじらを立て辛辣な言葉を投げつけてきた。

「遅いよ。着替えるのにどれだけ時間がかかってるんだい!」

「ごめんなさい、リーバル。待っていてくれたんですね」

素直に謝罪し待ってくれていたことに感謝の意を含ませてそう言うと、彼は意外そうに目を見開く。
それもつかの間、すぐに不機嫌そうな顔になり、再び文句を垂れだした。

「ふん。僕一人なら今頃ラブラー山上空を飛んでいるところだってのに。
あの姫は一体何を考えてるんだか……」

彼は腕組みをほどくとおもむろに壁から身を起こし、メインストリートを歩き始めた。
何の合図もないが、さっさと行くぞ、ということだろう。

大人しく彼の先導に従うことにし、後を追う。

彼は飛べない私に歩調を合わせてくれている。
敵の目をかいくぐるために駆け足で移動するときに飛ぶことはあるが、それ以外は比較的徒歩で前を歩いた。
もっと無碍な扱いをされると予想していただけに配慮を感じさせる行動は意外だ。

けれど、やはりリーバルは必要以上に話をしようとはしない。

無言の状態が長く、気まずさが募る。
何か雑談でも……とは思うが、私自身自分から話しかけるのがあまり得意ではないため、彼からの指示や問いに受け答えする以外は終始無言を貫いていた。

リトの村で状況を聞き、足早にヘブラ山に向かう。

入山したころにはちらついていただけの雪は、山頂に近づくにつれ猛威を振るい、山小屋に避難するころには視界が閉ざされてしまうほどの大雪に見舞われていた。
事前に姫様からうかがっていた予報のとおりになってしまった。
これではおそらく魔物も下手には動けないだろうということで、しばらく小屋の中で待機することにする。

この山小屋は廃墟だったところを改修し、現在はリトの村の住人によって管理されているものらしい。
小屋の中には食料や薪の備蓄が十分に置かれ、床にもさほどほこりが積もっていないところから見ても、定期的に人が訪れているのがわかる。

隅に積まれている薪をいくつか取ると、暖炉に残っている燃えカスに新しい薪をくべ、火打ち石で火をおこす。
食料棚にはハイラル米のほか、ジャガイモやニンジン、凍ったマックスサーモン、ミルク、バター、調味料など、数日は持ちそうなほどの食料が豊富にそろっている。
これならリゾットが作れそうだ、でも小麦粉もあるならシチューもいいな……などとじゃがいもを手にしながら夕飯のメニューを考えていたとき。

窓辺に立ち外の様子を見張っていたリーバルが、窓の外から視線を外さず唐突にくちばしを開いた。

「……君さ、僕のこと嫌いだろ」

「えっ」

出し抜けにそんなことを言われ、選別していたじゃがいもをうっかり取り落としてしまう。

足元に転がってきたじゃがいもを拾い上げ、角度を変えつつながめながら、リーバルは続ける。

「その反応、図星だろ。見ていればわかるよ」

「……ちょっと待ってください」

私はわけがわからないなりに、いったんストップをかけた。

リーバルは何か誤解をしている。
……というより、逆だ。彼が私を嫌っているのではなかったか。

「お言葉ですが、その……リーバルこそ、私のことがお嫌いなのでは……」

「はあ……?」

彼は、切れ長の目をまん丸に見開くと、私の顔を凝視した。

「何言ってんの?」

「だって……リーバル、私がほかの英傑の皆さんと話をしているとすぐどこかへ行ってしまいますし、ほかの方とは普通に話をされるのに、私やリンクには冷たいですし……。
嫌われていると思って当然じゃないですか。
だから、できるだけ距離を置いたほうがいいかと思って、なるべく話しかけないようにしていたんです。
不快な思いをさせてしまったなら、ごめんなさい……」

本心を伝えると、彼は何か思い当たる節があったらしく、片手を腰に当てると、顔を反らして大きなため息をついた。

「はあ……なんだ、そんなことか……」

「なっ!なんだ、ってなんなんですか!
こっちは真剣に悩んで……!」

私があまりに必死なのがおかしかったらしく、彼は私の顔をちらりと見ると小さく噴き出した。

「君の早とちりだよ。
リトは君たちに比べ索敵能力が高いからね。
おそらく敵の気配を察知して様子を見に行ったとか、何か気になることが浮かんでほかのやつに確認してた……とか、大方そんな具合だろ」

そう説明され、彼の行動を反芻し、納得する。
タイミング的にてっきり疎まれているものだとばかり思い込んでいたが、視点を変えてみると、あの行動は彼の説明通りにも取れる。
つまりは、間の悪いことが続いたためにお互いすれ違っていただけだったのだ。

リーバルは「それに」と付け加えると、表情を歪めた。

「僕は気に入らないやつには真っ向から勝負を挑みに行くたちでね。
まず君が考えているような陰気な真似はしないよ」

暗にリンクのことを言いたいのだと気づき、思わず苦笑する。

「……彼は表情こそ乏しいですが、いいやつですよ。
リーバルとならいい友人になれると思うんですけどね」

「君というやつは……何を見ていたらそう見えるんだい、まったく……」

リーバルは呆れ気味にそう言うと、私の手にじゃがいもを無造作に置いた。
そうして棚を漁りだしたかと思うと、調味料を取ろうとして床のタバンタ小麦をぶちまけたり、ハイラル米の袋に足を引っ掛けて破いてしまったりと危うく大惨事になりかけたので、ひとまず手近な椅子に座っていただくことにした。

こうして面と向かって話をしてみると、リーバルは口こそ悪いが意外と話しやすく、そして、不器用だ。
弓を引く凛々しい姿やそつなく任務にあたる姿しか知らなかったため、こんな一面はまったく想像ができなかった。

姫様はきっと、私たちのすれ違いに心を痛めて、こういった機会を設けてくださったのだろう。
機微な計らいに感謝し笑みを浮かべつつ、いかにリンクより自分のほうが優れているかを力説し始めた彼の話に耳を傾けながら、夕食の準備に取りかかった。

終わり

(2021.3.13)

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