退魔の騎士リンク、ヒーラーの楽士、そして僕ら神獣の繰り手に”英傑”などとたいそうな称号が与えられた。
楽士は姫に勧誘されるまで戦闘経験のないただの一般市民だったというのに、国がそんな子にまでこの称号を付与するとは正直驚いた。
僕ら神獣の繰り手は特殊な力を持つ。僕は上昇気流、ミファーは治癒、ダルケルは強固な守り、ウルボザは雷(いかづち)……。
とはいえ、いくら僕らが有能な人材でも、それぞれが一つの能力に長けているというだけだ。
しかし彼女が吹くあの笛の音は違う。彼女が旋律を奏でることにより、特定の物の時を止めたり、風を起こしたり、けがを治癒したりと多岐にわたる。
能力の類に一貫性はなく、デクの樹の話によるとまだ能力を秘めているという。
それでも彼女は己の能力を誇示することなく、まだ未熟であることを自覚し懸命に特訓に励んでいる(そんな彼女の口癖はただの町娘、だ)
それはさすがに卑下し過ぎだろうとは思う。彼女の能力は戦場において大いに役立っているし、彼女が参加する任務はけが人が少ないとも聞く。着々と成果を上げつつあるのはわかっている。
けど、僕はそんな彼女の成長を素直に喜べない。最初は無能な人間が僕らと同じ立ち位置にあることへの怒りが先走っていたが、今はそれだけじゃない。
僕らに比べ場数も少なく高い技術を有するわけでもない彼女が…という思いとは別に、突然自分の能力を見出され祭り上げられた彼女がプレッシャーを感じていないか。そこが気がかりだ。
自分にできる限りのことをがんばっているのはわかっているし、その結果もついてきているとは思うが、国の評価は彼女を駆け足から全速力に切り替えさせるほど過大ではないだろうか。
けれど、叙任式の前。控え室に現れた彼女を見たとき、僕の懸念は杞憂かもしれないとも思った。
彼女は頑なに脱ごうとしなかったフードを取り払い、長らく秘めていた素顔を衆目にさらしたのだ。
初めて見る彼女の顔には、少しの戸惑いと、恥じらいと、決意に満ちた強い意思が込められているように感じた。
皆一様に彼女に声をかけるなか、僕はどう反応を示すのが正解かわからず、努めていつも通りを装った。けれど、それがかえって不自然だったかもしれない。
わざと目を合わせまいとしていたというのに、あの案山子(かかし)ときたら、僕の顔を気安く掴んで彼女のほうを無理やり向かせやがった。
思わず、だ。自分の意思とは別に。
正直……魅入ってしまった。
(2021.7.4)