シーカータワー全基の起動により、ついにイーガ団のアジトの所在を突き止めた。
数日の休息のあとゲルド地方に向け軍行を進めた僕らは、砂漠の長い移動による疲れを癒すべく一時ゲルドの街へ滞在することとなった。
街へ着くなり馴染み同士さっさと散ってしまった一行に呆れつつ、図らずも彼女と取り残されたこの状況に少なからず喜んだのはここだけの話だ。
今まであくせくと鍛錬に費やしてきたのもあるが、故郷は過疎地で村としてあまり栄えていないということもあり、こうして誰かとぶらぶらと店を見て回るということはほとんどなかった。思えば彼女と二人きりの余暇を街で過ごすのも初めてのことかもしれない。
僕からのお誘いを素直に喜ぶ彼女。思わず気が緩みそうになるのを手を差し出して誤魔化すが、リトと人間では手の大きさが異なることを思い出した。
どう繋げばいいかわからなかったらしい彼女が僕の小指を掴んだことにより、平静を保ってきた心は完全にかき乱されてしまった。
露店の並ぶ通りに入るなり彼女はヒンヤリメロンの店で立ち止まった。
店主と話し込んでいる様子だったので、そのあいだに近くの露店を見て回っていると、所狭しと並ぶ店のなか、ふと宝飾店の棚に目がとまった。小さな石を削り女神像を象ったお守りだ。
女神像の真ん中に埋め込まれた自分の瞳と同じ色の宝玉。一目で気に入った。
彼女にサプライズで渡して驚かせてやろうと画策しているところに、彼女がヒンヤリメロンを手に戻ってきた。
手にしているものが何かなんて聞かずともわかっていたが、思わず後ろ手に隠した女神像を悟られまいと、あえて話をヒンヤリメロンにすり替えてしまった。
今渡しておかないと、いつ渡せるかわからない。焦る気持ちとは裏腹に、いざ渡すとなると気恥ずかしさが勝り、結局持ち帰る羽目になった。
彼女はあろうことかこの僕をことあるごとに”意気地なし”だと罵るが、このときばかりは不本意ではあるがその通りだと認めざるを得ない。
(2021.11.9)