「では、いきますよ……王様だーれだ?」
姫様の声に番号の彫られた小枝を持つみんなの目が真剣味を帯びる。
私のとなりでウルボザがクスリと笑んだ。
「私が王様だ」
「では、ウルボザ。ご命令をお願いします」
思惑を匂わせるウルボザの妖艶な笑みに姫様は困ったように微笑みながら促した。
ウルボザはそのすらりと長い足をしなやかに組みかえると、小枝を口元に添えながら一層笑みを深める。
「それじゃ、2番から4番に、パンの口渡しでもしてもらおうかねぇ」
「ええっ」
小枝を確認しながらウルボザの言葉に耳を傾けていた私は、指定された番号と命令の内容にすかさず立ち上がる。
私からほんの少し離れた切り株に腰かけていたリーバルも驚いたように声を上げながら同じく立ち上がった。
それによりお相手が彼であることを知り動揺を抑えつつ見つめれば、彼は横目にこちらをちらりと見向いたあと、視線を地面に落とした。
彼が2番で私が4番であることが確認されるあいだ、姫様に指示されてリンクがストックから取り出したパンをせっせとちぎるのを遠目に見て、あれが今から彼の口から私の口に……と想像して喉が震えた。
刑に処される囚人はこれ以上のプレッシャーに圧されることだろうが、今の私は彼らには及ばずとも限りなく近い重圧を感じているに違いない。
けど、それは私だけでなく、彼もきっと……。
どぎまぎしながら平静を保とうとそんなことを浮かべていたせいか、いつの間にか近くに迫っていたリーバルにあごを掴まれ上向かされた。
「ほら、王のご命令はちゃんと聞いてなきゃダメだよ、アイ?」
からかうように含み笑う彼の白い指先には小口に切られたパンの端切れがつままれており、たき火の炎が私の羞恥心を代弁するかのようにぼうっと燃え盛る。
私の動揺を悟ってか、リーバルは口角を上げふんと鼻を鳴らした。
「少し顔が赤いようだけど……もしかして、照れてるのかい?」
「てっ……照れてません!さっさと終わらせましょう」
「さっさと、ねぇ。言ってくれるじゃないか」
忌々しげにそう口籠った彼を不思議に思いながら、しかめられた目を探っているうちに、両肩をぐっと掴まれた。
くちばしの先のパンが、おもむろに私の口元へと運ばれてくる。
そっと押し付けられたそれを無我夢中でかじると、リーバルは微かに目を細めた。
黄色い悲鳴や笑い声に揺られ火が燃ゆるなか、もごもごと咀嚼する私の向かいでくちばしを親指で拭いながらリーバルはささめく。
「了解もないのにあれ以上やっちゃうのは、さすがにかわいそうかな……」
その言葉の意図することを想像し、ますます頬に熱が集まるのを手で押さえながら彼を見やれば、すでに踵を返したあとで、座っていた切り株に腰を下ろそうとしているところだった。
「そ、それでは、もうワンゲームいたしましょうか」
胸を押さえながらそう告げた姫様の元にみんなが小枝を返しに向かう。
「ウルボザ、命令の内容が過激すぎます」と怒る姫様に、ウルボザは「まあ、いいじゃないか」とたしなめつつさらりと受け流す。
その視線がすいっとこちらに向けられたかと思うと、ウインクを投げかけられた。
本当に、何を考えてるんだこの人は……。
終わり
(2021.12.25)
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