記念文

マリッタ馬宿にて

ほのぼの~微甘?。夢主視点。
マリッタの馬宿での一幕。


 
リトの村からハイラル城に向かう道中、タバンタ大橋が改修工事で通行禁止になっていたため、迂回して南タバンタ雪原を通ることになった。

ラーミン平原に差し掛かったとき、遠方にマリッタの馬宿を見つけ、ゼルダの計らいで休憩をとることにした。
ここに至るまで雪原を越えてきてクタクタだったため、彼女の心遣いが深く身に染みる。

ゼルダとリンクは馬宿の受付に、ミファーとウルボザは馬宿の周りに群青する木から焚き火に使えそうな薪を取りにそれぞれ行ってしまった。

ダルケルはいち早く樹の幹に腰かけると、どこからともなく特上ロース岩を取り出し、かじりつく。

「うめえ!ここまで頑張った甲斐があったぜ!」

「やれやれ……よく言うよ。
ここに来るまで腹が減ったって何度も座り込んでたくせにさ」

リーバルは焚き火の前に置かれた椅子に腰かけながら、ダルケルの豪快な食事っぷりを不愉快そうに見やり、嫌味っぽくそう言った。

「もしもし、リーバルさん。
あなたさっき雪の下のアイスバーンに足を取られて座り込んでませんでしたっけ?」

茶化すようにそう言いつつ横からすっと食事の入った皿を差し出すと、リーバルはそれを受け取りながらじろりとこちらに矛先を向けてきた。

「君がセツゲンオオカミに囲まれてるのをわざわざ助けてあげたのが誰だったか、もう忘れたみたいだね」

「うっ……あのときはありがとうございました」

深々と頭を下げる私に、リーバルはフンと鼻を鳴らす。

「そういえば、君はよほど動物に好かれるらしいね。
ダルケルを勧誘しに行ったときだっけ?
彼が助けた犬にすり寄られてたって姫が言ってたぞ」

「ああ、あったなあ、そんなこと」

彼のとなりの椅子に腰かけながら、思い返し、クスクスと笑う。

すると、いつのまにそこにいたのか、馬宿の犬が私のとなりにちょこんとお座りをして、舌を垂らしていた。
はっはっとパンティングしながらこちらをじっと見てくるかと思うと、とびかかってきて、突然のことに私は体制を崩して椅子から転げ落ちてしまった。

横で成り行きを見ていたリーバルもさすがのことに驚いて立ち上がる。

「おいおい、大丈夫かい?
しっかりしてくれよ」

「だ、大丈夫じゃないです、助け……ひゃあっ」

リーバルに助けを求めるが、そこそこ大きな犬が馬乗りになってなめてくるので、身動きが取れず顔を背けることしかできない。
助けを求めたはずのリーバルは、なかなか助けてくれないどころか、さっきから妙に静かだ。

ちらりと様子をうかがうと、彼は手で目元をおさえながら、何やら気まずそうにこちらから視線を反らしている。

「てっ、照れてないで助けてくださいよ!」

「なっ……何で僕が照れないといけないんだい?
勘違いも甚だしいね!」

そう文句を垂れ、今度こそ助けようとしてくれているのか、彼がこちらに向き直ったところで、私の上から重みが引いた。

見上げると犬を軽々と抱えるリンクと目が合った。
彼は犬を小脇に抱えながら、私の手を引いて立たせる。

どんだけ怪力なんだこの人は。

「ありがとう、リンク」

「いや……」

彼はぼそっとそう言うと、犬を抱えて受付のほうに戻っていった。
リンクに降ろされた犬は、今度はゼルダの前にちょこんとお座りして、彼女になでなでされている。

「……やってくれたね」

リーバルはなぜか悔し気にそうつぶやくと、何事もなかったかのように椅子に座り直し、皿の中のサーモンリゾットをかきこみ始めた。

終わり

(2021.3.14)


 

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