記念文

一方、ウオトリー村では

「今ごろお二人はうまくいっているでしょうか」

串焼きの魚を手にぼんやりとつぶやいたゼルダは、こんがりと焼けた横腹に躊躇なくかぶりついた。
初めて野宿をしたときは作法を気にしていた彼女もすっかり旅人の面つきだ。
たき火に照らされ赤くなった頬に魚の身が転がされるのを眺めつつ、それはどっちの意味かねえ?と言いかけた口をつぐみ「そうだねえ」と酒をあおる。
彼女の”うまくいっているか”には恐らく、出立前に二人の口論が白熱しかけていたことを案じるニュアンスしか含まれていない。
迂闊に口を滑らせるところだった。この場で二人の感情に気づいているのは私だけだということを失念していた。暖気に酔わされたか。

「リーバルの口が悪いのは変わりないけど、そんなあいつもアイ相手だと多少なりとも温和になるからねえ。アイアイで、私らには同調しがちだけど、リーバルにだけははっきりと物を言う。あの二人は何だかんだで馬が合うのさ」

「それならいいのだけれど……」

「案ずることはないよ、御ひい様。心配なら二人が帰ってきたときにでも尋ねてみるといいさ」

「……そうですね、そうしてみます」

ゼルダは納得したように微笑んだ。
彼女に「うまくいったか」と尋ねられ狼狽する二人の姿を目に浮かべ、ふたたび吹き出しそうになる。

刹那、ぼう、と上がった火に驚く。舞い散る火の粉の向こうで薪を足している最中のリンクがぺこりと会釈した。

「藪から蛇……か。あんまり人をからかって楽しむもんじゃないねぇ」

小首を傾げる姫様に「ただの独り言さ」と自嘲の笑みを浮かべつつ、ぬるい酒の入ったタンカードを傾けた。

終わり

(2022.2.14)


 

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