村の外れの山道を息を切らせながら登りきると、村の灯りがろうそくの火のように煌々と目下一面に広がり、感激のあまり吐息が漏れる。
疲れが吹き飛ぶほど見事な情景だ。
かたわらに立ち後ろ手を組みながら村を見下ろすリーバルの瞳を、月明かりの青白い光が微かに映し出す。
壮烈なまでの鋭さが鳴りを潜めて弧を描くその目から、いつもなら意図的に悟られまいとしているであろう穏やかな印象さえ感じられ、何とも蠱惑的なものとして映ってしまう。
「夜にカカリコ村の上空を飛ぶとよくこの灯りを目にするけど、祭りの夜ともなると提灯の数も多いし見ものだ。今夜は特に……」
紡がれかけた言葉は、閉ざされた赤いまぶたの裏に潜められ、次にその奥の翡翠が現れたときには見慣れた涼しげな眼差しにすり替わっていた。
「口が過ぎたな。さあ、あと少しだよ」
森の奥を指し示し、そのままゆったりとした足取りで暗がりに入っていく。
任務で人気のない場所に二人きりということはこれまでに何度もあったけれど、こうして余暇を二人で過ごすことなどなかったせいか変に緊張してしまう。
「ほら、蛍火だ」
木々の影に飲まれ暗闇に溶け込んだとき、森の奥にぼんやりと無数の光が現れた。
光はふわふわとたゆたうように舞っては、時折羽を休める場所を求め木の葉に止まる。
「あっ」
遠くの光に夢中になるあまり足元の枝に足を取られそうになった私の体を、リーバルが脇から支えてくれる。
「抜けてるなあ……」
嫌味っぽくそう言いながら、私が転ばないようにだろう、手をしっかりと握ってくれた。
「今度、特別に僕の背に乗せてあげる。だからさ……また見に来ようよ」
ふたりで、と顔を反らしながら言いにくそうにつぶやくのが無性にいじらしくて、返事の代わりに腕を引き寄せてふわりとした頬に唇を寄せた。
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後日、ノックとともに返答を待たずして部屋に入ってきたリーバルは、昨晩渡しそびれたと言ってかざぐるまのかんざしを私の手のひらにのせた。
聞けば、実のところ前日の任務の途中カカリコ村に立ち寄ったため祭りのことはすでに知っていたらしく、その際に出店で買って渡す用意をしておいたのだという。
「今度僕と出かけるときはそれをつけなよ」
肩越しにそう言って目尻を下げると、颯爽と手を挙げて立ち去った。
六枚羽のかんざしは羽の一つひとつに翡翠が埋め込まれ、彼が去り際に残した微かな風に吹かれてゆっくりと回っている。
トゥルーエンド
「ホタル舞う夜の約束」
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