記念文

ホタル舞う夜の約束

「ああ~やっぱりそううまくはいかないか……」

「残念だったな、嬢ちゃん」

かれこれ五回は払った20ルピーと引き換えに、私の手持ちには小さなあめ玉が増えていく。
豊かな髭と眉がやたら特徴的すぎる強面なこのおじさんの懐が少しでも潤うならいいか、と投げやりにため息をこぼしながら、巾着から再度ルピーを取り出そうとしたとき。

「そろそろ代わってもらっても良いかな、お嬢さん?」

気取ったような澄んだ声にそう声をかけられ、夢中になって占領してしまっていたことを詫びようと振り返った私は、息が詰まるほど驚いた。

「リーバル!」

「先に回ってるなんてなかなか白状だよねぇ?」

リーバルは、てっきり待ってくれてるかと思ってたんだけど、とぼやきながら20ルピーと引き換えに店主から弓を受け取った。

リーバルが弓を構えたとき、横から店主が待ったをかけた。

「リト族にはハンデをつけさせてもらうよ。一発で的のど真ん中に当てられたら一等賞で手を打とう」

「おいおい、見くびってもらっちゃ困るな……。ど真ん中なんて楽勝だよ。そこの的三つに連続で当てろとでも言われないと張り合いがなさ過ぎる」

「そこまで言うなら、10連続当ててみせてくれよ」

リーバルは乗った、とでも言いたげにふん、と鼻で笑うと、私が差し出した矢筒から三本矢を手に取り、弦につがえた。
宣言通り、リーバルの放った矢は10連続で三つの的の中央に当たった。
5回目を過ぎたあたりから人だかりができはじめ、10連続果たした瞬間、集まった見物人たちの拍手喝采が沸き起こった。
まんざらでもなさそうに得意げな笑みを湛えているリーバルは、店主がおずおずと差し出してきた1000ルピーを断ると、代わりに子ども用のおまけのかざぐるまをねだった。
安堵したような顔で差し出されたかざぐるまを受け取ると、リーバルはそれを私に、君にあげる、と差し出し、ついと顔を上げた。

「ようやく姫たちが見つかったよ。こっちだ」

ぐいっと肩を抱かれ、流れるように腕を掴まれる。

「本当は別のやつを用意してたんだけどね……」

ぼそりとくちばしの先からつぶやかれた言葉は、喧騒にもみくちゃにかき消されてよく聞き取れなかった。
紺の羽毛に覆われた彼の横顔が微かに色づいて見えた理由をいつか勇気が出たのなら尋ねてみたい、と何となく思った。

 
ノーマルエンド
「景品のかざぐるま」 


 

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