「では、いきますよ……王様だーれだ?」
姫様が声をかけると、ミファーがはっと顔を上げ、緊張した面持ちでぱっと手を挙げた。
「はいっ……私ですっ」
「ではミファー、ご命令をどうぞ。
まずは命令したい番号を1から6のなかから好きなだけ選び、それから命令です」
「1から6、それから命令……」
ミファーは思案するようにあごに人差し指を添えながらゼルダの言葉を擦り込むように繰り返したあと、決意を固めたようにこくりと頷き、みんなを見渡した。
緊張が走ったみんなの顔が、たき火の灯りに照らし出されている。
「じゃあ、1番が2番の耳元でささやく、でどうかな……?」
命令の内容にどきりとする。2番は私だ……!
となりでリーバルがぐっと息を飲んだのが聞こえたとき、ゼルダが挙手を促しだした。
「1番と2番はどなたですか?」
2番です、とおずおずと手を挙げる。
「1番はどなたですか?」
ちらりとリーバルをうかがうと、彼とばっちり目が合ったあと、即座に顔を反らされてしまった。
そんな反応されたらこっちまで緊張してしまう。
「どうやら、リーバルのようだね?」
「おい……っ!」
うろたえるリーバルに、ウルボザがうふふ、とおかしそうに笑みを深める。
「では、リーバル、アイの耳元で……その、ささやいてくださいっ」
ゼルダが気恥ずかしそうに促す。私たちを凝視するみんなの視線が痛い。
「ちょっと待ちなよ。ささやくったって、何て言えばいいんだい?」
「……だそうです。どうですか?ミファー女王」
「そ、そうだよね。じゃあ、”愛してる”、って5回言ってもらえる?」
「は、はあ!?ミファー、君ってやつは……結構無茶なこと言うよね」
眉間のしわを深めるリーバルに、ごめんなさいリーバルさん、とミファーが微笑む。
彼の嫌味に臆さないのはさすが一応年長者……。
「王様の命令は?」
ゼルダの掛け声に「絶対~!」という冷やかしが、たき火の炎を大きく揺らす。
助けを求めてリーバルを見つめると、彼は額に手を添えてゆっくりとかぶりを振ったあと、諦めたような顔で指でくいっとこちらに来るように示した。
よろよろと立ち上がり、リーバルのかたわらに歩み寄る。
彼が片翼をくちばしに添えながらもう少し寄れと指で示すので、それに従いくちばしに耳を寄せる。
リーバルの酒気を帯びた熱い吐息が耳に吹きかかる距離まで近づいたとき、低い声が耳に吹き込まれた。
「……君、いつも僕のこと見てるだろ」
「えっ……!?」
予想外の言葉を唐突にささやかれ、思わず声が裏返る。
「どうしたのですか、アイ?」
ゼルダがきょとんとした顔で小首をかしげる。
「い、今、命令と違うこと……」
「ルール違反はいけませんよ、リーバル。
もう一度命令に背いた場合、あなたには罰ゲームを受けていただきます」
「これがすでに罰ゲームだろ」
「リトの英傑様に尻文字でも書いてもらうか?」
ダルケルの言葉に、どっと沸く。
「わかったわかった、言えばいいんだろ、言えば……!」
再びこちらを見向いたリーバルは眉間にしわを寄せると、まったく……余計なこと言うんじゃないよ、と小声で叱責してきた。自業自得では……。
じろりとにらみ返すと、ぐいっと彼の翼に腕を引かれ、再び片翼が顔の側面を覆う。
愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、……愛してる。
最後の一回はねっとりとした声でささやかれ、耳がぞわりとした。
身を離そうとするが、よりぐいっと引き込まれ、頬に、ぬるりとした熱い感触が這った。
「うわあっ」
頬を押さえながらばっと身を離すと、リーバルはうまくやりおおせたと言わんばかりに妖艶な笑みを浮かべた。
何事もなかったかのように地面に置いたタンカードを掴み上げ、かたむけている。
そよ風に舞う火の粉の音が、重々しい静寂にパチパチと弾ける。
「アイ、大丈夫ですか?」
未だ頬を押さえて固まったままの私を、ゼルダが心配そうにのぞき込んでくる。
だ、だいじょうぶ、です……と細々と答え、元いた場所に座り直した。
「では、もうワンゲームいたしましょうか」
ゲーム再会の合図に、一斉にゼルダの元へ小枝を返しに行く。
新しい小枝を手に定位置に戻る際、こそっとリーバルが肩越しにささやいた。
「……僕もいつも君を見てる」
ばっと見上げた彼は、肩越しに微かな笑みを浮かべると、ツンとそっぽを向いた。
だんだん顔が熱くなっていく。たき火の炎、ちょっと強いな……。
終わり
(2021.6.25)
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