何かしら菓子折りでも持って行ったほうが話を運びやすいだろう。
まあ、女性なら喜ばれるだろうし、モチベーションを回復させるのにもちょうどいいはずだ。
……特別な意味なんてないはずなのに、なぜか頭の中で次々理由を並べ立ててしまう。
思いのほか悩んで菓子を買い求め、彼女をバルコニーに呼び出すころにはすでに陽が暮れ始めていた。
アイはまさか僕に呼びつけられるとは思っていなかったらしく、服を掴む手がソワソワとせわしない。
あれだけ手厳しいことを言ったんだ。怖がるのも無理はない。
一息つくと、後ろ手に隠しておいた菓子の包みを彼女の眼前に差し出す。
「えっ、私に……?」
菓子の包みに目を見開いたアイは、戸惑うように僕を見上げた。
「その……ダルケルから君が落ち込んでるようだと聞いてね」
あんまり見つめ続けられるせいで少し気恥ずかしくなってきて、口元を翼で隠し咳払いでごまかす。
「このあいだは……まあ、言い過ぎちゃったからさ。お詫びの印だと思って受け取りなよ」
君の口に合うかわからないけど。そう一言添え、彼女の手を掴んで握らせる。
初めて触れた手は僕の翼にすっぽりと収まるほど小さく、柔らかな感触に胸がざわつく。
そんな僕の内情も知らずに、アイは感激したように目を潤ませた。
「そんな!あれは私の自業自得だったのに……かえって気を遣わせてしまいましたよね」
「別に」と素っ気なく返す僕に対し、それでもアイは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「でも、嬉しいです。……ありがとうございます、リーバル」
沈んだ様子はどこへやら、満面の笑みを浮かべる彼女にこれで良かったのだと胸をなでおろす。
けれど、どうしてだろう。無事に和解できたというのに、胸は収まるどころか鼓動を増すばかりで、ちっとも鳴りやまない。
まさか、たかがこんなことで僕は……。
エンドC
「芽生え」
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