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Re:世界で一番青空が似合うあなたへ

リトの村にて。
ハイラル王国から公用でハイリア人が来たと耳にした。
はやる気持ちを抑えながら広場に降り立った僕は、つり橋を渡る見慣れた金色の髪に落胆した。

ハイラルの姫君は僕の顔を見るなり少しおかしそうに笑った。
わざわざ鏡で確認しなくても、いつも通りの顔のはずだ。平静は保たれている。
それなのに、なぜ笑うんだ……?

不快感をあらわにしながら、用件は?と問うと、姫は、そうでした、とポーチから一通の封筒を取り出した。
そこに宛名はなく、封すら閉じられていない。

「何だいこれは。また僕宛てのファンレターかい?」

「いいえ。それは私の友人があなたに綴ったものです」

「……は?」

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手短に挨拶を済ませ、手紙を手に自宅に戻った。
まさか。まさか。彼女が僕に手紙なんて。

急いで便箋を取り出し文に目を走らせた僕は、震える喉元を片翼で隠した。間違いない、これは彼女の筆跡だ。
差出人名を塗りつぶす奥ゆかしさに、ため息が漏れる。気が動転しそうだ。

気を落ち着かせながら、もう一度ゆっくりと全文に目を通す。

そして、我に返る。
これは、一見僕に宛てたものだが、実際に送るつもりで書いたわけではなかったようだ。
正直、心底がっかりした。これじゃまるでポエムか日記じゃないか。

宛名や封がされていなかったところから見ても、大方姫がお節介で僕のところに持って来たに違いない。
お節介焼きな彼女の意図など僕なら考えずとも手に取るようにわかるが、普通の感覚なら冷やかしと取られてもおかしくはないレベルだ。

自分がひた隠しにしてきたものが、知らないあいだに僕の手に渡ったと知ったら、彼女はどんな顔をするんだろう。
……彼女の悲しむ顔なんて、あまり想像したくない。

その反面、正直納得がいかない部分もある。
僕の気持ちを置き去りにしているとも知らず、自分の気持ちを紙切れ一枚にしたためて引き出しにしまい込んでいたなんて。
そんな身勝手を僕は許さない。僕が向かうまでのあいだだけでも、せいぜい悩めばいい。
嬉しいはずなのに、こんなときでさえ底意地の悪さがしゃしゃり出る。……仕方ない。こういう性分なのだから。

ともあれ、だ。
僕も一人の男として、とうとう本心を示すべき時が来たようだ。
会いに行くのは、この胸の内をしたためてからでもいいだろう。

書き出しは……そうだな。まずは忠告しておかないと。これは二人の秘め事だって。
それから、小心者な彼女に、ひと言苦言を呈してやらないとね。

ああ、返信なんて書いてないで、今すぐ飛んで行って抱きしめてしまいたい。

終わり

(2021.6.5)


 

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