天翔ける:バイト編

13. 清流の里にて(後編)

ドレファンの温情に感謝しつつ、旅の疲れを癒すために一日滞在させてもらうことになった。
ひとまず荷物を預けに宿に向かうと、すでに宿代はすでにミファーが払ってくれており、食事は宿のサービスで提供してもらえるとのこと。
ミナッカレ馬宿の主人といい、ハイラルの人々は親切だ。こんなに良くしてもらってばかりで本当にいいのだろうか。

リーバルは「サカナのねや」に宿泊するのは初めてのようで、ウォーターベッドのふにゃふにゃとした感触に何とも言い知れない表情を浮かべながら、時折指でつついては唸っていた。
余程感触が気に入ったのか、食事の時間まで少し仮眠をとるとまで言い出し、ミファーとの挨拶もそこそこにさっさと横たわってしまったのにはちょっと呆れてしまったが、我が道なところが相変わらずリーバルさんらしいとミファーが笑うので、私もついつい笑みがこぼれる。

すぐに寝息を立て始めたリーバルにそっとブランケットをかけたミファーは、私のベッドのほうに回り込んできて、窓辺の段差に腰を下ろした。
周囲を気にしながら手招きする彼女に、言わんとすることを察し、そのとなりに腰を下ろしながら耳を傾ける。

「……アイさんとリーバルさんって、いつからお付き合いを始めたの?」

ミファーと再会となるとこういった話題になることは予期していたが、さっそくくるとは思わずつい動揺してしまう。
リーバルは地獄耳だ。眠っているとはいえ聞かれていないとも限らない。できるだけ声を低くして耳打ちする。

「厄災討伐前に、雨のなかレイクサイド馬宿で雨宿りした日があったでしょ?あの日、ミファーたちと合流する前に……」

「えっ、そうだったの……!?」

興奮気味に目を輝かせるミファーに人差し指を立ててリーバルを目で示す。彼女はごめんなさいと両手を合わせたが、申し訳なさそうな顔は、間を置かずふたたび好奇心に満ちていく。

「それで、どっちから想いを伝えたの?」

「そ、それは……」

私です、とは口にできず小さく手を挙げるに留めると、ミファーは「ええっ」と目を見開いた。けど、確かにリーバルさんのあの様子からして、自分から告白ってちょっと考えにくいかも……と妙に納得した様子だ。
彼女には私たちがそんな風に見えていたのかと恥ずかしくなる。

「けど……なんだか不思議だなあ。二人ともギクシャクしてるかと思えば、気づけば仲直りしてて、また離れたかと思えば、何だかんだでまた一緒にいて……。リンクとは、そんな風になったことがないから……」

「ミファーはおっとりさんだし、リンクも優しいもんね。二人は一緒にいてもずっと穏やかな時間が流れてそう」

「そう、なのかな……」

リンクとのことを想像してか、ミファーは困惑した様子で自分の頬をさすっている。

「ねえ、リンクとはあれからやり取りしてる?」

「ぶ、文通はしてるけど、その……なかなか一歩を踏み出せなくて」

「……さっきから何をコソコソ話してるんだい?」

背後からかかった声に、ミファーとそろって肩が跳ねる。
危惧してはいたが、やはり眠りが浅かったか。
声や仕草は気だるげな割に目だけはやけにすっきりとしていて、はじめから起きていたんじゃないかないかと疑いたくなる。

「内緒。女同士の秘密、だよね」

このタイミングでリーバルが起きてくるとは思っていなかったのか、狼狽えた様子を隠しきれないミファーは、私の問いかけにコクコクと頷ずくだけだ。

「あっそう……。ま、君たちのことだ。どうせ恋愛とかその手のくだらない話だろ?」

「なあに、その反応。もしかして、リーバルも混ぜてほしかったりして?」

「は?今の流れでどうしてそうなるんだい?」

「リーバルさん、照れてる……」

「僕が、何だって?」

その後、私とミファーの冗談にすっかり不貞腐れてしまったリーバルは、したたかに舌打ちをすると荒々しく羽ばたき飛び去ってしまった。
ミファーとのガールズトークは、陽が落ちるころにようやく戻ってきたリーバルから呆れ気味なお小言をもらうまで続いたのは、言うまでもないだろう。

(2023.11.14)

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