偏屈者の苦悩

偏屈者の苦悩

「リーバルよ。おめえ、アイと何かあったんじゃねぇか?」

ダルケルの問いに、思い切り顔をしかめる。
彼が何かしら言い出すであろうことは、先ほどからちらちらと不躾な視線を寄越していたことから何となく勘づいてはいた。

アイ
今はその名前を聞くだけで少し気分が悪い。
すぐに思い当たったと感づかれたくなくて「何が?」とはぐらかすと、「とぼけるんじゃねぇよ」と呆れたようなお叱りが飛んできた。
そうくることはわかっちゃいたが、簡単に引いてもらえないとなると厄介だ。

「冗談だよ。それで?彼女が僕のことを悪く言ってたって話だっけ?」

「おめえなあ、そういうとこだぜリーバル。あいつがおめえを悪く言うと本気で思ってんなら大間違いだ。大体よ、アイの奴が俺に事情を話してくれてたんなら、こうしてわざわざおめえに確かめたりしねえ」

「はいはい、わかったから。さっさと要点を話しなよ」

だんだん面倒くさくなってきて頭を抱えながら先を促すと、ダルケルは顎を擦りながら宙を仰いだ。

「あー、そうだな。まあ、なんだ、昨日たまたまアイとおめえの話になったんだがな。終始妙に浮かない顔しててよ……」

あいつに何言ったんだ?と探られ、アイとの最後のやり取りを思い出す。

何のことはない、先日の任務中に彼女がリスキーな行動を取った際に苦言を呈しただけだ。
むやみに敵に突っ込むもんで、一気に詰めず一太刀入れたらいったん身を引けと忠告してやったにもかかわらず、同じことを何度も繰り返していたからだ。
案の定、僕の忠告を無視したばっかりに、危うくボコブリンの打撃を受けそうになっていた。
間一髪で僕が仕留めたが、大怪我を負う一歩手前だった。

一歩間違えれば命を失っていたかもしれない。
だったら、咎められるのはもはや当然のことだ。

けど……強いて言えば、彼女のあの反応から見ても多分言い過ぎた。僕自身自覚がないのかと言われれば……まあ、もうちょっと言い方を考えてやるべきだったかな、くらいは思わなくもない。
自分のしでかしを思い起こしていた僕は、ダルケルの探るような視線に我に返り、思いきり顔をしかめた。

「……あんたには関係ないだろ」

この巨体の割にはつぶらな瞳から探るように見つめられては、何だか説明するのも面倒になってくる。
つい投げやりに返してしまった僕に、しかしダルケルは「いいや、今度ばかりは見過ごすわけにゃいかねぇ」だなんてさらに食い下がってくる。

「まあ、俺に話しづらいなってんならこれ以上は聞かねえ。だがな、アイは大事な仲間なんだ。そうやって意固地になってるとあとあとやりづらくなるだけだぜ」

「大事な仲間……ね」

こういう情に厚い表現をしたがるところはどうも好きになれない。
うんざりしてきた僕は、沸々と湧いてきた苛立ちを鎮めるべく溜め息を吐き出すと腕を組んだ。

「……言っちゃ悪いけど、僕は間違ったことを言ったつもりはないよ。むしろ、あの程度の指摘もちゃんと聞き入れられないようじゃ、いつか痛い目を見るのは彼女自身だと思うけど?」

「確かに言い分は間違っちゃいねぇよ。けどな、もっとマシな言い方はあったんじゃねぇのか?おめぇは何かと歯に衣着せぬ物言いをしたがるからなぁ」

そこが玉にきずだとでも言いたいのだろう。図星を指され喉が詰まる。
常日頃からお節介な奴だと思っちゃいたが、こうも無遠慮に立ち入られると正直迷惑だ。

腹が立ってつい睨み返してしまったが、彼は怒るどころか心配そうに僕を見つめ返してくる。
人情を重んじる碧い瞳。
まるで子ども扱いされてる気がして気に入らない。
けど、僕もこんな些細なことに対していつまでも頑なに反発しているようじゃ、幼稚だと認めるようなものだ。

彼の言葉をいったん受け止め、冷静に考えてみる。
思えば、いくらお節介とはいえ彼が僕に対してしつこく食い下がってくるのも案外珍しい。
ここまで心配するほど、彼女……アイは、僕の言動を引きずってるとでもいうのだろうか。

他人同士のトラブルにここまで介入されたとあっちゃ、少々引っかかりを覚えないでもない。
正直シャクだが、一言詫びを入れておいたほうが無難か……?

謝る
謝らない 


 

「偏屈者の苦悩」topに戻る
 
「読み切り」に戻るzzzに戻るtopに戻る