記念文

命令B:ゲーム中ずっと手をつなぐ

「では、いきますよ……王様だーれだ?」

姫様が声をかけると、ウルボザが妖艶な笑みを湛えてひらりと手を挙げた。

「私だ」

「ではウルボザ、ご命令をどうぞ。
まずは命令したい番号を1から6のなかから好きなだけ選び、それから命令です」

ウルボザはあごに手を添え少し思案する様子を見せたあと、ふと思い立ったように目を大きく見開き、口角を上げた。
緊張が走ったみんなの顔が、たき火の灯りに照らし出されている。

「それじゃ、1番と6番のふたりに、王様ゲームが終わるまでずっと手を繋いでいてもらうとしよう」

「1番と6番はどなたですか?」

姫様が挙手を促すように手を示す。
ひっそりと小枝を確認する。そこには”6″の数字が描かれていた。ドキリとする。……私だ。
あともう一人は……と周囲を確認しようとしたとき、リーバルが指でつまんだ小枝をかかげ、親指で私をクイっと示した。

「僕が1で、アイが6だ」

ダルケルがヒュウと口笛を吹いた。ウルボザは口元を手で隠してはいるが、真横にいる私からはニヤニヤしているのが丸見えだ。
ゼルダとミファーが頬を赤らめながら小さな声でひそひそと話しているのがとてもこそばゆい。

「お前さんにしちゃやけに積極的だな?リーバル」

「……変な勘違いしないでくれよ。たまたまこの子の番号が見えたってだけさ」

手を繋ぐなら、と私と二人で腰掛けていた丸太からウルボザが立ち上がった。

「リーバル、交代だ。あんたはアイのとなりに座りな」

「やれやれ……」

やけに嬉しそうなウルボザに舌打ちをしながら、面倒くさそうに立ち上がり、リーバルはウルボザが座っていたところに座り直した。
丸太に腰を落としたとき、風に混じって少しだけ彼の香りがして、距離の近さをより感じさせられる。

「では、リーバル、アイ。お手を……どうぞ」

ゼルダが恥じらいながら私たちを手で示す。
戸惑いつつとなりを見上げれば、リーバルは頬杖をつきながらちらりと長し目にこちらを見た。
すっと、大きな手のひらがためらいなく差し出される。

「ほら、さっさとつなぎなよ」

反対どなりから冷やかしが聞こえてくるなかそっと手を重ねると、ぎゅっと握られた。女性陣から黄色い声が上がる。
ふわふわとした羽毛の奥から、リーバルの力強い指先の感覚が伝わってくる。……温かい。

騒がれたのははじめのうちだけで、ゼルダが再開の号令をかけるとみんなの顔つきは次の命令への期待に変わった。
番号が書かれた小枝が集められるとき、手を繋いだままなので二人同時に戻しに行くとまたからかわれれてしまったが。
ウルボザにおちょくられて、うるさい!と切り捨てるリーバルの横顔が赤く見えたのは、たき火のせいだけじゃない気がした。

しばらくは私もリーバルも指名されず、みんなが楽しそうにしている様子に一点集中した。
目線を前に向けてないと、真横の気配に、手を包み込む感触に、意識をすべて持って行かれそうになるからだ。
なのに。何のいたずらか、リーバルが突然私の手をぎゅうっと強く握りしめてきた。

横目に見上げると、相変わらず頬杖をつきながらゲームの成り行きを眺めていたリーバルが、私の視線に気づいて目を向けてきた。
目尻を下げると、声を潜めてこんなことを言う。

「君の手……小さいねえ」

そうささやくあいだも確かめるようにぎゅ、ぎゅ、と握られる。

「り、リーバルの手が大きすぎるんですっ」

力強すぎます……!とお返しに手のひらをつねると、リーバルは目を丸くし、眉を歪めて笑った。
少しだけ手の力を抜いてくれたかと思うと、ごめんごめん、と親指の腹で手首をさすられ、驚きと羞恥でぞわりと肌が粟立つ。

「な、何してるんですか……!」

「ただ握ってるだけってのもつまらないじゃないか」

そうこう話しているうちにまた小枝を回収する声がかけられる。
なおも抗議しながらゼルダの元に集まったとき。

「何か言ったか?」

ふいにダルケルに声をかけられ、二人同時に肩が跳ねた。

「……別に。役が与えられないと暇だなって話してただけさ」

さすが弁が立つだけあって咄嗟の嘘が上手い。
へえ?と勘ぐるような視線にリーバルはツンとそっぽを向いて無視を決め込み、行くよ、と腕を引かれる。

「では、2番と3番の方、お願いします!」

リーバルと話し込んでいて、次の指示を聞いていなかった。

「3は君じゃないか。今、ウルボザはなんて言ってた?」

またウルボザが王様のようだ。リーバルも命令の内容までは聞いていなかったようだ。
さあ、と小首をかしげているところ、頭上に影が落ちた。

見上げると、リンクが私の前にぬぼーっと立っている。
たき火を背にしているせいで、無表情の顔がさらに陰って見えちょっと怖い。

「君が2番?まったく、ひと声かけたらどうなんだい」

リーバルの言葉にちら、と視線を送ると、じゃあ、とこちらに向き直ったリンクがおもむろに片手を挙げた。

「……触るよ」

「え?」

グローブの手が、ぽん、と頭に置かれ、すっすっとなでられた。
命令の内容は”頭をなでる”だったようだ。

つないだ手にぐぐっと力が込められる。あまりに強い力に顔を歪めリーバルを見上げると、気まずそうに視線を反らされた。
リンクは、それじゃ、ともうひと声かけると淡々と定位置に戻って行く。リンクをにらみ据えるリーバルの舌打ちが私の耳には大きく響いた。

それっきりそっぽを向いてしまったリーバルの手は緩められてしまって、私がぎゅっと握り締めても握り返してくれない。
それが何だか寂しくて、つい、手のひらに指を滑らせていた。

“す”

“き”

リーバルがようやくこちらを振り向いた。
まん丸に見開かれた翡翠が、炎の灯りでてらてらと揺らめいている。

「あんたら、いつまで手を繋いでる気だい?お熱いねえ」

私たちの背後からぬっと顔を突き出したウルボザに、仰け反りながら慌てて互いの手を離す。
いつの間にかお開きになっていたようだ。

「ウルボザ!驚かさないでくれよ」

あっはは!悪いことしちゃったかねえ、と手をひらひら振りながらテントに入っていくウルボザを見送る。

もう少し、つないでたかったな……。
まだ手に残る温もりを確かめながらちらりと見やったリーバルは、つないでいた手をじっと見つめていた。

終わり

(2021.6.22)

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