「では、いきますよ……王様だーれだ?」
姫様が声をかけると、ダルケルがすかさずこぶしを掲げた。
「おう、俺だぜ!」
「ではダルケル、ご命令をどうぞ。
まずは命令したい番号を1から6のなかから好きなだけ選び、それから命令です」
おうよ!と力強く胸を打つと、あごをさすりながらニヤニヤと悪だくみをするような笑みを浮かべる。
緊張が走った皆の顔が、たき火の灯りに照らし出されている。
「そいじゃあ、3番が5番のモノマネをするってなあどうだ!?」
“3”と書かれた小枝を見下ろし、はっと顔を上げる。……私だ。
「あっはっは、そりゃあいいね!なかなかおもしろそうじゃないか」
「では、3番と5番は挙手してください」
3です、とおずおずと手を挙げるが、5番が手を挙げる様子がない。
「5番はどなたですか?」
しん、と水を打ったように静まり返るなか、かたわらの切り株に腰かけつまらなそうに頬杖をついていたリーバルが突然チッと舌打ちをし、小枝をひらひら振った。
「……僕だ」
よりにもよってリーバルのモノマネをしろと。下手なことを言えば、間違いなく怒られる。
ダルケルの無邪気さをこれほど憎らしいと思ったことはない。
「では、アイ。リーバルのモノマネをお願いします」
促すゼルダの声に少し笑いが混じっていて、余計羞恥が増す。
皆が笑いを堪えニヤニヤと私のモノマネを待つなか、一人だけ刺すような翡翠の目を向けてくる。
「余計なこと言ったら、わかってるよね?」
「そ、そういうこと言われたら、真似しようにもできないじゃないですかっ」
「そうだよ、リーバル。これはゲームなんだから、少しは大目に見てやりな」
隣に腰かけるウルボザが私の肩を支えながら、私越しにリーバルをたしなめた。
はいはい、と不服そうに肩をすくめるリーバル。がんばりな、とささやきウィンクを送ってきたウルボザに背中を押され、すくっと立ち上がる。
リーバルを横目に見下ろすと、彼はこちらをちらりと一瞥したきり、腕組みをしてそっぽを向いてしまった。
こほんと咳払いする。
後ろ手を組み、重々しい足取りでおもむろにリンクの元へと歩み寄る。
皆の顔にやや真剣みが宿っている。
「選ばれたっていう姫付きの騎士が……こんな案山子みたいな奴だとはねぇ」
床にあぐらをかくリンクをあごを反り冷ややかな笑みを浮かべて見下ろすと、その瞬間どっと笑いが起こる。
じっと無表情で見ていたリンクもふっと少しだけ笑みを浮かべた。その口はすぐに引き結ばれたが。
「二度もそのセリフを言われちまうとはなあ、相棒!」
豪快に笑うダルケルの斜め隣りで、同じく大笑いしていたウルボザが目尻を拭う。
「あんた上手いじゃないか!まるでリーバルそのものだったよ」
いそいそと元の位置に戻ると、バシバシと背中を叩かれ苦笑いが浮かぶ。
まあ、我ながら名演技だったとは思う。
「ど こ が、だい?」
正面をにらみ据え、腕組みのまま二の腕をトントンせわしなく叩いている。目も合わせようとしない様子から怒りがありありと見て取れる。
「みんなには好評みたいですけど」
「……あとで的になってもらうからね」
矢じりのように鋭い視線がこちらを向く。
もうすでに射られてますけど、と言うと、再び起こった笑いの渦で中央の炎が大きく揺らいだ。
終わり
(2021.6.21)
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