微甘。リーバル視点。
ゼルダから頻繁にシーカーストーンを借りてはウツシエを撮る夢主。
その被写体に自分が選ばれることに期待を抱きつつも疑問を抱くリーバルは、夢主の手からウツシエを奪い取り核心を突く。
カシャッ
音とともに視界の端が一瞬光り、不意にそちらを振り返る。
シーカーストーンから顔を上げたアイと目が合うと、彼女は満足そうに笑みを浮かべた。
アイは近頃、姫からシーカーストーンを借りては、ウツシエを撮るのに凝っている。
はじめのうちは景色や花、空模様、生物に人物……といったように手当たり次第に撮っていたのが、最近はもっぱら僕ばかり撮るようになっていた。
正直なところ、僕は写されるのがあまり好きではない。
以前英傑たちと並んでウツシエを撮った際、ダルケルの馬鹿力で肩を組まれたせいで体勢を崩し、派手に転んだのを笑われ大恥をかいたからだ。
こうしてシーカーストーンを向けられると、そのときの醜態がまざまざと思い出され気分が悪いことこの上ない。
「ーーよしよし、うまく撮れてる」
画面を見てにやにやするアイにからかわれているような気になり、苛立ちからシーカーストーンを奪う。
「あっ」と小さく声を漏らすと、僕からシーカーストーンを取り返そうとジャンプして掴もうとするが、僕より頭一つ分小さい彼女に届くはずもなく。
「また姫からシーカーストーンを借りたのか。写す前に僕の許可を取るのが筋ってもんだろ」
「ええ、いいじゃないですか!太古の遺物にご自分の英姿がそのまま残るんですよ。我々がシーカーストーンを発掘したように、さらに1万年後の世界の人がシーカーストーンを見つけ、このウツシエを目にするかもしれない。そう考えると、何だかロマンを感じません?」
アイは悪びれる様子もなく口を尖らせたかと思えば、爛々と目を輝かせながらそう力説した。
「君の語彙目録に”ロマン”なんて言葉があったとはねえ」
「……どういう意味ですか」
からかってやると途端にふくれっ面になるアイに、僕はすかさずシーカーストーンを向ける。
カシャッ
「あっ!今撮りましたね!?あああ、私、絶対変な顔してた……」
想像通り慌てふためくアイ。
再びシーカーストーンを取り返そうと腕を伸ばしてくる手を掴むと、僕は眼前に顔を近づけた。
「なぜ毎回僕をモデルにしたがるのか白状したら返してあげる」
そっと耳打ちすると、アイはぼっと火がついたランプのように顔を赤くし、不意に視線を反らしてぼそぼそとつぶやいた。
「リーバルが、被写体に相応しいと思ったので……」
アイの素直な気持ちにドキリとするが、僕は余計に意地悪をしたい衝動にかられ、アイの腕を掴む手に力が入る。
「それじゃわからないな。もっと直接的な言い方をしなよ」
追い打ちをかけるようにくちばしを頬に寄せると、アイはますます頬を染め、羞恥に顔を歪めながら声を張った。
「あなたが!
……あなたの横顔が、あまりに、綺麗なので……」
尻すぼみになってゆくか細い声に、今度は僕のほうが恥ずかしくなってきて、彼女から手を放しシーカーストーンを突き返した。
「……ふん」
胸をおさえてふう、と息を吐くアイのうぶさに「かわいい」と思うも、彼女の顔を直視できず、ちらりと見ては視線を反らしてしまう。
この場から飛び去ってしまおうかと広げた翼を、ぐいっと引き寄せられ、バランスを崩してしまった僕の腕に、アイの腕が絡んだと思った瞬間。
カシャッ
「うふふ、リーバルとのツーショット、いただきました!」
アイが突き出した手に握るシーカーストーンの画面には、笑顔のアイと体勢を崩し少し驚いた顔の僕が並んで写っている。
この前撮ったウツシエのようでまた羞恥心が芽生えるが、となりで嬉しそうに顔をほころばせるアイを見ていると、呆れと喜びの入り交じったため息が漏れる。
「やれやれ……」
アイは何かにつけて僕との接点を持ちたがっては、ほのめかすような発言をするくせに、僕がそれに応えようとすると茶化したがる。
彼女の言動の裏に僕への恋慕が見え隠れしていることくらい、知能の低いボコブリンでさえ理解できるほどに見え見えなのに、だ。
アイの言動に振り回されながらも、悪い気はしない。
……むしろ、まんざらでもなく思いつつある。
そんな僕が、彼女に想いを伝えるまで、あと5秒。
終わり
(2021.3.14)