王様ゲーム

命令E:10秒ハグをする

「では、いきますよ……王様だーれだ?」

自分の手の小枝をちらりと見やる。私だ。

「はい!私です」

初めて王様になったことが嬉しくて思わず勢いよく小枝を掲げてしまった。
周囲の眼差しが何だか微笑ましげなのがちょっと恥ずかしい。

「では、アイ。ご命令を」

クスクスと笑いながら姫様が促す。
指先で頬をかきながら思案し、前々から自分が王様になったときにはこの命令を下そうと考えていたことを浮かべる。
けど、この命令はあくまで姫様やミファー、ウルボザなど女性同士のスキンシップを想定してのことだ。
ギリギリダルケルであれば許容されるだろうが、万一リンクやリーバルに当たった場合は冷やかしの的になること必須。
ダルケルは照れつつも何だかんだ受け入れてくれるだろう。リンクは彼自体これといって何の反応も示しそうにないが、ミファーが傷つくのが容易にわかる。
けれど、可能性は6分の1。当たらないことを祈るばかりだ。
一番の問題はリーバルだ。彼に当たったが最後、本気で怒らせてしまうかもしれない。拒絶されるのが目に浮かぶ。
でも……彼だといいなあという気持ちが、なくもない。
彼に話しかけるのがやっとな私には、こんな機会でもなければ触れることなんてそうそうできやしないのだから。

アイ、大丈夫ですか?」

小首をかしげる姫様にはっとして頷く。

「では、命令を言い渡しますね。6番の方……10秒間、私のハグを受けてください!」

これまで王様に選ばれた人は配下2人を選出し行動させるような命令ばかりを下していた。このような命令の出し方は意外だっただろう。みんなの驚いたような表情にそうありありと浮かんで見える。

「は!?」

私のとなりで自分の小枝を確認していたリーバルが目を大きく見開いた。……もしや。

「リーバルが6番ですね。では、リーバル。王のご命令に従ってください」

根拠はないがてっきりミファーやウルボザあたりだろうと踏んでいただけに、まさか本当にリーバルに当たってしまうとは心底驚いた。
姫様に起立を促され舌打ちをしながら渋々立ち上がったリーバルは、腰に片翼を添えながら私に近づいてきた。

「君にしちゃ随分大胆な命令じゃないか」

なぜかイライラした様子でそう言われ、委縮しそうになる。私にハグされるのがそんなに嫌だったのだろうか。

「ご、ごめんなさい」

リーバルは丸くした目を瞬かせると、なぜかよりむすっとした顔になりそっぽを向いてしまった。

「リーバル。王様の命令は絶対ですよ。もしこの命令を飲めないというのであれば、あなたには罰を受けていただきます」

「別に、拒否するとは一言も言ってないよ。ただ……ちょっと気に入らないことがあってね」

並んで座るリンクとダルケルを睨み据えながら囁かれた言葉の意図するところは、わたしには汲み取れなかった。
けれど、ハグ自体を拒絶してのことではないということがわかり、少しだけほっとする。

顔を逸らせたリーバルが流し目にこちらを見やり、短くため息をこぼす。

「それで。やるの?やらないの?」

「……リーバルさえお嫌じゃなければ」

「さっさとしなよ」

食い気味にそう言われ、固唾を飲む。

「では、いきます……!」

みんなが緊張の面持ちで見守るなか、いざ、とリーバルの腰にしがみついた。
緊張して勢いよく突進するようなかたちになり、彼の体が少しよろめく。
胴当て越しにほんのりと体温が伝わってくる。
腕の羽毛が二の腕に掠め、ふわふわと柔らかな感触に何とも言い知れぬ心地良さのようなものを感じ、密着する体だけでなく心までリーバルに近づいたような気になる。
おもむろに見上げると、ちらりとこちらに視線を寄越した彼と視線が絡み、瞬間的に反らされてしまった。
やっぱり、ハグは難易度が高すぎたかもしれない。今ごろになって顔に熱が集中する。

「……いつまでそうしてるつもりだい?」

頭上から気だるげな声がかかり、我に返る。

「もう20秒はとっくに過ぎたんじゃないかい?」

ウルボザが含み笑いながら入れた茶々にみんながけらけらと笑う。

「わ!数えてなかったです、すみません……!」

ぱっと腕を離し距離を取ろうとすると、リーバルの大きな翼にすかさず肩を掴まれ、耳元にくちばしが寄せられた。

「10秒じゃ足りないっていうんなら、ほかの奴らがいないときならこの続きをしてあげてもいいけど?」

小枝を回収しますよ、と号令がかかり、みんなが姫様に集まってゆく。
耳を抑えながら振り見たリーバルは妖艶にせせら笑い、小枝をひらひらさせた。

彼の言葉を反芻させながら真意を考えるが、どう考えても自分の期待通りの言葉にしか辿り着かない。
また彼に触れられる日も、そう遠くはないのかもしれない。
そんな予感に胸を弾ませながら、緩みそうになる口元を押さえつつ、不思議そうに首を捻る姫様に小枝を差し出すのだった。

終わり

(2021.12.2)

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